「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する 実態調査 

2016年03月01日
労働政策研究・研修機構は、「妊娠等を理由とする不利益取扱い及びセクシュアルハラスメントに関する 実態調査」結果を発表。

【調査結果のポイント】

○ いわゆるマタハラなど妊娠等を理由とする不利益取扱い等の経験率は 21.4%。上司だけではなく同僚からも行われ、男性だけではなく女性からも行われている。

○ 防止対策に取り組んでいる企業では、妊娠等を理由とする不利益取り扱い等の経験率が低くなるとともに、出産後も働き続ける女性の割合が高くなる傾向がある。

○ セクシュアルハラスメントの経験率は 28.7%であり、正社員が 34.7%と高い。


【調査結果の概要】

1.産前・産後休暇、母性健康管理措置、育児休業等の状況

(1)産前・産後休暇、母性健康管理措置の規定状況、雇用形態別適用状況
就業規則等に明文化された産前・産後休暇、母性健康管理措置別の規定状況をみると、「産前・産後休暇」を規定している企業割合が 86.2%と最も多く、次いで「時差通勤・勤務時間の短縮等」(68.2%)、「業務負担軽減」(63.3%)等となっている。産前・産後休暇の規定がある企業割合は、規模が大きくなるほど高くなり、1,000 人以上規模では 100.0%となっている。
制度の規定がある企業について、雇用形態別に制度の適用状況をみると、正社員についてはいずれの制度も 99%以上の企業で適用されているのに対し、パートタイマーでは4割前後、契約社員等フルタイムの有期契約労働者では3割台の企業が適用している。
有期契約で雇用され他企業に派遣されている労働者については、他企業へ派遣をしていて、制度の規定がある企業について見ると、3~5割台の企業が適用している。

(2)雇用形態別妊娠した労働者の継続就業等の状況
企業が把握した最近3年間に妊娠した労働者の継続就業等の状況をみると、正社員では産前・産後休業を取得せずに退職した者は 7.4%で、在職中に出産した者は 75.0%であった。産前・産後休業後に復職せず退職した者は 0.9%、産前・産後休業後の復職者は 73.3%、育児休業を取得せずに復職した者は 1.1%であり、多くは育児休業を取得している(72.2%、在職中に出産した者 75.0%についての育児休業取得率 96.3%)。育児休業後退職した者は2.2%、復職した者が 51.3%と復職した者が多い(育児休業を終了した者 53.5%(育児休業取得後退職した者 2.2%と育児休業取得後復職した者 51.3%の和)についての復職率95.8% )。正社員のまま職位を下げずに復職した者が 48.0%、雇用形態をパートタイマーに変更した者が 2.7%であった。正社員については出産後、育児休業を経て正社員として復職する割合が高くなっている(育児休業後の復職者 51.3%について、正社員のまま職位を下げずに復職した者の割合 93.6%)。

有期契約のパートタイマーについては、妊娠した後の退職や出産状況を企業に把握されていない者が 19.3%、出産後の退職、復職状況を把握されていない者が 4.4%いる。また、産前・産後休業を取得せずに退職する者が 17.7%と比較的多い。在職中に出産した者 58.3%に対し育児休業取得者は 50.8%で育児休業取得率は 87.1%である。

フルタイムの有期契約労働者では産前・産後休業取得前に退職した者は 11.4%とパートタイマーよりは少なく、産前・産後休業取得後の復職者は 78.3%と正社員より高い割合である。育児休業取得後の復職者は 42.5%、退職者 1.2%と育児休業取得後の復職率も高い(育児休業を終了した者 43.7%(育児休業取得後退職した者 1.2%と育児休業取得後復職した者 42.5%の和)についての復職率 97.4%)。在職中に出産した者 81.4%に対し育児休業取得者は 72.2%で、育児休業取得率は 88.6%である。

他企業への派遣労働者(有期契約)については、産前・産後休業を取得せずに退職した者が 16.9%、在職中に出産した者が 59.3%とパートタイマーに近い割合であるが、産前・産後休業取得後に復職せずに退職した者が 11.8%、育児休業取得後に退職した者が 5.6%と他の雇用形態より高く、復職率は低くなっている(育児休業を終了した者 28.1%(育児休業取得後退職した者 5.6%と育児休業取得後復職した者 22.5%の和)についての復職率80.1%)。在職中に出産した者 59.3%に対して育児休業取得者 47.2%で、育児休業取得率は 79.5%である。

(3)雇用形態別、企業規模別育児休業取得状況
働いていた企業で未就学児の育児を経験した者について、育児休業取得者の割合は55.7%で、企業規模が大きいほど取得率は高い。
雇用形態別にみると、正社員では 74.2%であるがパートタイマーで 24.8%、派遣社員で21.3%であった。なお、有期雇用の労働者の中には育児休業制度が適用されない者を含むため、非正社員の取得率が低く出ていると考えられる。本調査では妊娠等を理由とする不利益取扱い等を経験した者に限って出産予定日時点での勤続年数、子が1歳になった以降の契約更新の見込み、子が2歳になるまでの雇用契約の終了について聞いているので、この条件について育児休業制度が適用されうる者に限って取得状況をみることができる。その数値をみると、非正社員ではいずれも正社員(6.2 ポイント上昇)より大きく上昇し、とくに派遣労働者(22.5 ポイント上昇)で上昇幅が大きいが、取得率の水準ではいずれの雇用形態でも正社員を下回った。

2.妊娠等を理由とする不利益取扱い等の状況

(1)雇用形態別妊娠等を理由とする不利益取扱い等経験率
働いていた企業で妊娠、出産、未就学児の育児を経験した者について、妊娠等を理由とする不利益取扱い等の経験率は 21.4%であり、企業規模が大きいほど経験率は高い。雇用形態別には派遣労働者で 45.3%と高い。

(2)妊娠等を理由とする不利益取扱い等の態様
妊娠等を理由とする不利益取扱い等の態様としては、「『休むなんて迷惑だ』『辞めたら?』など、妊娠・出産・育児関連の権利を主張しづらくするような発言をされた」が 47.0%と最も多かった。続いて、妊娠等を理由とする不利益取扱い等を「示唆するような発言をされた」(21.1%)、「賞与等における不利益な算定」(18.4%)で、「雇い止め」(18.0%)、「解雇」(16.6%)となっている。
派遣労働者に対する派遣先からの妊娠等を理由とする不利益取扱い等としては、やはり「『休むなんて迷惑だ』『辞めたら?』など、妊娠・出産・育児関連の権利を主張しづらくするような発言をされた」が 29.9%と多いが、雇用形態計での 47.0%よりは低い。次いで「妊娠したが、仕事ができるにもかかわらず、派遣契約を打ち切られたり他の労働者への交代を求められた」が 24.7%と妊娠の段階でのものが比較的多かった。

(3)妊娠等を理由とする不利益取扱い等の行為者
妊娠等を理由とする不利益取扱い等の行為者は、男性 55.9%、女性 38.1%と、男性からが多いが、女性からも行われている。
経験者との関係では、「職場の直属上司」(29.9%)、「直属上司よりも上位の上司、役員」(20.8%)が多く、「職場の同僚、部下」(14.9%)と続く。人事所管部署からの妊娠等を理由とする不利益取扱い等は 7.9%であった。

(4)妊娠等を理由とする不利益取扱い等を受けることになった事由
妊娠等を理由とする不利益取扱い等を受けることになったと本人が考える事由については、「妊娠、出産」が 44.0%と最も多いが、300 人以上企業では 39.9%とやや下がる。次いで「つわり、切迫流産などで仕事ができない、労働能率が低下」(23.1%)、「育児休業」(21.2%)の順となっている。

(5)妊娠等を理由とする不利益取扱い等防止対策
妊娠等を理由とする不利益取扱い等を防止するための対策に取り組んでいる企業は51.1%、取り組んでいない企業は 48.9%であった。
取り組んでいる事項(複数回答)をみると、「相談・苦情対応窓口の設置」が 23.4%で最も多く、次いで「つわり等により不就労が生じた妊婦がいる職場に対する業務上の応援」(14.0%)、「管理職に対し、妊娠等を理由とする不利益取扱いが違法行為であること等について、研修などによる周知」(11.1%)の順となっている。
相談・苦情対応窓口の形態(複数回答)としては、「人事担当者や職場の管理職を相談担当者に決めている」が 71.5%と最も多い。
相談・苦情対応窓口に配置している者の性別をみると、「男女双方を配置」が 54.8%、「男性のみ配置」が 34.3%、「女性のみ配置」が 10.9%となっている。

(6)妊娠等を理由とする不利益取扱い等防止対策の効果
郵送調査で企業と紐付けできた従業員サンプルについて、企業が取り組む妊娠等を理由とする不利益取扱い等防止対策別に不利益取扱い等経験率をみると、取り組んでいる企業の方がいずれも取り組んでいない企業より 2.9 ポイント経験率が低い。対策別には「実態調査のためのアンケートや調査」(同 6.7 ポイント低下)や、「つわり等により不就労が生じた妊婦がいる職場に対する業務上の応援」(同 5.8 ポイント低下)を実施する企業での経験率が比較的低い。

また、企業が取り組む妊娠等を理由とする不利益取扱い等防止対策別に女性社員の妊娠・出産時までの就業継続状況をみると、防止対策に取り組んでいる企業では、正社員について「出産後も働き続ける女性が大多数だ(おおむね8割以上)」が 47.1%である一方、取り組んでいない企業では 37.2%であり、防止対策に取り組んでいる企業の方が出産後も働き続ける女性が多い。一方、防止対策に取り組んでいる企業では、正社員について「出産後も働き続ける女性はほとんどいない(おおむね2割未満)」が 19.2%であるが、取り組んでいない企業では 33.7%と、防止対策に取り組んでいない企業の方が出産後も働き続ける女性が少ない。

また、有期契約労働者についてもこの傾向は同様で、防止対策に取り組んでいる企業では「出産後も働き続ける女性が大多数だ(おおむね8割以上)」が 27.3%、防止対策に取り組んでいない企業では 23.2%となっており、正社員だけでなく有期契約労働者についても対策に取り組む企業で取り組まない企業よりも出産後も働き続ける女性の割合が高い傾向がうかがえる。

3.セクシュアルハラスメントの状況

(1)雇用形態、企業規模別セクシュアルハラスメント経験率

セクシュアルハラスメントを経験した労働者割合は 28.7%であり、企業規模が大きいほどやや高い傾向がみられる。雇用形態別には正社員で 34.7%と高く、パートタイマーでは17.8%と低い。

(2)セクシュアルハラスメントの態様
セクシュアルハラスメントの態様別にみると、最も多いのは「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」で 53.9%である。次いで「不必要に身体に触られた」(40.1%)、「性的な話や、質問をされた」(38.2%)の順である。雇用形態別にみても全ての雇用形態で「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」が最も高いが、2番目に高い態様は正社員と契約社員等では「不必要に身体に触られた」、パートタイマーと派遣労働者では「結婚、子どもの有無など私生活に関わることについて必要以上に質問された、話題にされた」であった。

(3)セクシュアルハラスメントの行為者別割合
セクシュアルハラスメントを誰から受けたかについて、態様別にみると、男女別にはすべての態様で男性からが女性からを大きく上回っている。また、妊娠等を理由とする不利益取扱い等よりも女性から受ける割合が総じて低い(前出図表6-1、男性から 55.9%、女性から 38.1%)。
経験者との関係別には、「酒席等でお酌やデュエットを強要された、席を指定された」で「直属の上司」(28.5%)、「直属上司よりも上位の上司、役員」(27.4%)、「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」で「直属の上司」(26.0%)などが高い。

(4)セクシュアルハラスメント経験者の対応
セクシュアルハラスメントを受けた者がとった対応としては、「がまんした、特に何もしなかった」が雇用形態計で 63.4%、雇用形態別にみてもいずれも6割台と最も高い。次いで「会社の同僚に相談した」(14.4%)、「上司に相談した」(10.4%)であるが、「上司に相談した」はパートタイマーや派遣労働者では正社員、契約社員等に比べて低くなっている。
一方、派遣労働者については、「派遣会社に相談した」が 8.0%となっており、パートタイマーについては、「家族に相談した」が 11.6%と高く、契約社員等については、「会社の相談窓口、担当者に相談した」が 5.7%と比較的高い。労働組合や社外の組織はあまり利用されていない。

(5)会社の対応状況
「会社の相談窓口、担当者に相談した」「上司に相談した」者について、会社の対応状況をみると、「発言者・行為者に対する注意が行われた」が 36.4%と最も多く、次いで「事実関係の確認が行われた」が 29.1%となっている。
一方、「特段の対応は行われなかった」が 22.7%、相談した結果逆に「上司や同僚から嫌がらせを受けた」が 5.7%あり、「解雇や退職強要等の不利益取扱いを受けた」が 3.6%となっている。

(6)セクシュアルハラスメント防止対策
セクシュアルハラスメントの防止対策に取り組んでいる企業は 59.2%である。
取り組んでいる事項(複数回答)としては、「相談・苦情対応窓口の設置」が 36.5%と最も多く、次いで「セクシュアルハラスメントがあってはならない旨の方針の明確化」が29.6%、「セクシュアルハラスメント行為者に対する懲戒等の対処方針の文書化(就業規則等)」が 25.7%となっている。
相談・苦情対応窓口を設置している企業についてその方法(複数回答)をみると、「人事担当者や職場の管理職を相談担当者に決めている」が 74.2%で際だって多い。
相談・苦情対応窓口に配置している者の性別をみると、「男女双方を配置している」が53.5%、「男性のみ配置」が 35.1%、「女性のみ配置」が 11.4%の順となった。

(7)雇用形態別、態様別、セクシュアルハラスメントの把握と対応状況
雇用形態別に3年以内に把握したセクシュアルハラスメント事案の有無をみると、正社員について把握した企業が 9.6%と最も多く、次いで他企業からの派遣労働者について5.6%、パートタイマーについて 4.5%の順となっている。
把握したセクシュアルハラスメントの態様(複数回答)についてみると、正社員については「不必要に身体に触られた」(18.0%)、「『男の子、女の子』『おじさん、おばさん』といった呼び方をされた」(15.9%)、「性的な話や、質問をされた」(11.0%)、「容姿や年齢、身体的特徴について話題にされた」(11.0%)の順となっており、他の雇用形態に比べて「『男の子、女の子』『おじさん、おばさん』といった呼び方をされた」の割合が高い。
他の雇用形態についても、同様の態様が比較的多いが、他企業からの派遣労働者については「執拗に2人きりでの食事等に誘われたり、交際を求められたりした」(11.0%)が比較的多く、他企業への派遣労働者(有期契約)については「内容については分からない」が 78.4%と高くなっている。
企業の対応(複数回答)についてみると、「事実関係の確認を行った」がどの雇用形態についても多い。その他「発言者・行為者に対する注意を行った」や「職場全体に対する注意喚起を行った」とする企業が比較的多い。また、正社員に対して「特段の対応を行わなかった」企業が 12.7%と他の雇用形態に比べ多くなっている。

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