2016年版「ジェトロ世界貿易投資報告」 

2016年08月09日
ジェトロは、2016年版のジェトロ世界貿易投資報告をまとめましたので、総論編概要を以下のとおり発表します。

10のポイント:

1.世界貿易は12.7%減、6年ぶりのマイナス伸び率

2.新興・途上国で顕在化するスロー・トレードの動き

3.改善方向にある日本の貿易収支、2016年上半期は170億ドルの黒字に

4.日本の対外直接投資は5年連続で1,000億ドル超え

5.対日直接投資で一段と高まるアジアの存在感

6.世界のFTA発効件数は282件に、2015年はアジアのFTA網が拡充

7.貿易拡大効果が期待される拡大ITA、世界のITA貿易は3兆ドル

8.幅広い活用が期待されるTPP

9.波及効果をもたらすインバウンド市場

10.農林水産物・食品輸出額が過去最高の7,451億円


1.世界貿易は12.7%減、6年ぶりのマイナス伸び率

・2015年の世界の貿易額(商品貿易、名目輸出ベース)は、前年比12.7%減の16兆4,467億ドル(ジェトロ推計)となり、6年ぶりに減少に転じた。物価変動の影響を除いた実質輸出(数量ベース)は、1.3%増と小幅ながら増加したが、前年の3.5%増からは減速した。
・米国の輸入は前年比4.6%減となったが、需要回復を反映して電気機器や輸送機器など輸入が拡大した品目も多かった。中国の輸入は18.4%減と大幅に減少し、世界の輸入減に対する寄与度はマイナス1.9%に上った。医薬品や化粧品など一部消費財の輸入が好調だった一方、一般機械が12.5%減と振るわなかった。主要国の中では、ベトナムが唯一、輸出(7.9%増)、輸入(11.9%増)とも、前年比で増加した。
・商品別では、鉱物性燃料が40.3%減と激減し、世界貿易減に対する寄与度はマイナス5.9%に上った。設備投資の低迷を受け、一般機械(9.7%減)も減少した。他方、通信機器(3.9%増)や半導体等電子部品類(1.3%増)など好調な品目も散見されたほか、輸送機器は北米向け、医薬品では中国向けが拡大するなど、国・地域によって様相が異なる品目もあった。

2. 新興・途上国で顕在化するスロー・トレードの動き

・スロー・トレードとは、貿易の拡大ペースが世界の経済成長率と比べて伸び悩む現象をいう。2012年以降は、一貫して貿易伸び率がGDP成長率を下回る状態が続いており、実質GDP成長率に対する実質貿易伸び率の比率は0.5にとどまる。地域別に分解すると、特に新興・途上国でスロー・トレード現象が顕著である。
・スロー・トレードの循環的要因として指摘されるのが、貿易の動きに大きく反映される投資の低迷である。設備投資の主体である資本財や中間財の貿易は、2012年以降世界的に減速した。資本財と中間財の貿易の伸びは、総じて消費財の伸びを下回っている。
・一方、構造的要因として指摘されるのが、世界貿易を牽引してきたグローバル・バリューチェーンの発展ペースが減速した可能性である。 世界の工場であった中国の内製化の進展、アジア主要地域での域内貿易比率の高止まり、地域間コスト差の縮小などが要因として挙げられる。

3.改善方向にある日本の貿易収支、2016年上半期は170億ドルの黒字に

・2015年の日本の貿易は輸出が前年比10.0%減の6,251億ドル、輸入が20.7%減の6,483億ドル、貿易収支は233億ドルの赤字となり、5年連続の赤字となったものの、赤字幅は2014年の1,228億ドルから約1,000億ドル縮小した(円ベースでは輸出は3.4%増の75兆6,139億円、輸入が8.7%減の78兆4,055億円)。貿易赤字の縮小傾向は続いており、2016年上半期では170億ドルの黒字に戻している。
・輸出では、米国(2.8%減の1,259億ドル)が3年連続で最大の輸出相手国となった。一方、中国(14.0%減の1,093億ドル)は経済の成長鈍化もあり、一般機械、電気機器、輸送機器など総じて縮小した。
・日本の輸出は他の主要輸出国に比べて中間財、資本財の比率が高く8割に達する。2015年の日本の総輸出に対する財別寄与度をみると、総輸出の縮小に対する中間財の寄与度が△7.1%と最も大きく、その内、中国向け中間財の寄与度は△1.8%と、主要国・地域で最大であった。

4.日本の対外直接投資は5年連続で1,000億ドル超え

・2015年の日本の対外直接投資は前年比4.1%減の1,308億ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)であった。前年を下回ったものの、2011年以降5年続けて1,000億ドル台を突破した。主要国・地域別では、米国への投資額が449億ドル(前年比7.1%減)と、2010年以降6年連続で最大の投資先国となった。
・アジアの中では、ASEAN向けが3年連続で200億ドル台を維持した。他方、中国向けは89億ドルにとどまり、2013年以降、ASEAN向けと比べ2倍程度の金額差が生じる状況が継続している。対中国投資を業種別にみると、投資額は製造業、非製造業ともに2012年をピークに減少傾向にあるものの、構成比は2005年以降、非製造業の拡大が顕著である。
・2015年度の日本企業の海外売上高比率は58.3%と拡大傾向が続く。地域別に見ると、米州の比率が25.9%と米国経済の回復による需要の拡大などで2012年度の18.6%から上昇傾向が続いている。

5.対日直接投資で一段と高まるアジアの存在感

・2015年の対日直接投資(国際収支ベース、フロー)の実行額(グロス)は1,456億ドルであったが、ネットでは△4,200万ドルであった。2016年1~5月は116億ドル(ネット)と増加に転じている。地域別では、アジアからの投資が北米、欧州を上回り、存在感が一段と増している。2015年末の対日直接投資残高は24兆3,843億円と前年末から増加した。対日直接投資残高に占めるアジアの構成比は2014年末の15.5%から2015年末は17.6%に上昇した。
・アジアのコングロマリットやグローバル企業などが日本企業との協業により市場拡大を目指す例も増えている。また、サービス市場では参入する分野の多様化が進んでいる。
・世界の対外直接投資を国・地域別にみると、アジア(日本除く)の構成比拡大が近年著しい。アジアの構成比は2000年の6.5%から2015年に20.3%へ上昇した。

6.世界のFTA発効件数は282件に、2015年はアジアのFTA網が拡充

・世界のFTAは2015年以降新たに14件が発効し、282件となった(2016年6月末時点)。2015年以降発効したFTAのうち6件がアジア大洋州域内、また地域を横断するFTAも4件中3件でアジア各国が当事国であった。
・日本のFTAカバー率(貿易額に占めるFTA発効相手国との貿易額の比率)は2015年時点で22.7%である。2016年2月に署名に至った環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が発効した場合、39.5%に上昇する。
・2015年12月に中国・韓国FTAが発効し、韓国のFTAカバー率は2014年の41.1%から67.3%に上昇した。

7.貿易拡大効果が期待される拡大ITA、世界のITA貿易は3兆ドル

・WTOは2015年12月に第10回閣僚会議をケニア・ナイロビで開催し、ドーハ・ラウンドの一部の分野で合意に達した。他方、ナイロビ閣僚会議では、15年目に入ったドーハ・ラウンドの今後の方向性に関心が集まったが、従来の枠組み継続を主張する途上国と、「新しいアプローチ」を目指すべきとする先進国とで意見が分かれた。
・WTO全164加盟国での貿易自由化交渉が難しさを増す中、環境関連物品の関税撤廃と、有志国でのサービス自由化交渉が「プルリ(複数国間)ベース」で進む。その他、注目される多国間通商交渉の論点としては、WTO加盟15年を迎える中国の「非市場経済国」問題など中国をめぐる問題が挙げられる。国民投票によってEU離脱の方針を決めた英国は、WTOにおける関税等の再交渉を迫られる。
・情報技術協定(ITA)の品目拡大交渉は2015年12月に妥結し、WTOの53加盟国・地域は、新規に201品目の関税を撤廃することで合意した。拡大ITA品目の貿易額(輸出ベース)は世界全体で1兆8,109億ドルで、世界貿易の11.0%を占める。現行ITAと拡大ITAを合算した貿易額は3兆347億ドルに上る。

8.幅広い活用が期待されるTPP(1)

・TPPは世界のGDP(2015年)の37.4%、人口(同)の11.1%を占めており、発効すれば、巨大な広域経済圏が誕生することとなる。
・TPP締約国間では、既に二国間・地域間のFTAが発効している国間、TPPによって初めてFTAが形成されることが見込まれる国間の貿易がある。初めてFTAが形成される国間については、日本の貿易からみると、米国、カナダ、ニュージーランドの3カ国と初めてFTAが形成、日本企業が集積するベトナム・マレーシアと米国・カナダ・メキシコ・ペルー間などで新たにFTAが形成される。
・TPPの関税面での活用では、米国がTPP域内で最大の経済規模を誇ること、また初めてFTAを締結する国が多いことから、米国における関税節減効果が大きいと考えられる。米国の国際貿易委員会(ITC)によると、米国のTPP締約国に対する算定関税額(2015年)は60億ドルに及ぶ。

8.幅広い活用が期待されるTPP(2)

・TPPは幅広い業種で利用されると考えられるが、自動車・自動車部品では、強い競争力を持つ日本からTPP締約国への輸出で利用されていくとみられる。特に、米国とカナダについては、TPPによって日本との間で初めてFTAが形成されると見込まれ、貿易額も大きく、幅広く関税が賦課されている。
・TPP締約国の中には、繊維・縫製品分野の単純平均実行関税率が高く、関税の削減・撤廃幅が大きい国がある。TPP締約国(ブルネイとベトナムを除く10カ国)の輸入額(2015年)は縫製品で1,615億ドル、繊維で355億ドル、計1,970億ドルにのぼる。中でも、米国の繊維・縫製品の輸入額は1,151億ドル(この内、縫製品が1,003億ドル)と、圧倒的に大きな市場を形成している。
・TPPでは関税削減・撤廃の他にも、投資、サービス、知的財産、政府調達、国有企業、電子商取引など幅広い分野でハイレベルなルールが規定された。 TPPのサービス分野では、政府の認可を必要とする投資額の引き上げや外資出資比率の緩和などが盛り込まれた。電子商取引は、多額の投資を伴わずに海外の当事者と直接取引ができる点で、中小企業の国際展開にも有効な手段として期待される。電子商取引市場が拡大する中、TPPで先進的かつ包括的なルールが整備された意義は大きい。

9.波及効果をもたらすインバウンド市場

・日本の旅行収支(2015年)は、 1962年以来53年ぶりの黒字となる1.1兆円(90億ドル)の出超となったが、主要先進国と比較すると、到着数と収入の両面で依然として開きが大きく、国際観光収入のGDP比では0.4%と他の先進国に比べても低い。
・訪日客の要望は、従来の国内観光客と異なる場合があり、それに応えることにより新たなビジネスモデルが生じうる。例えば、観光インフラ分野では訪日客をターゲット顧客とした国際航空便の誘致やホテルの設立などの動きが続き、インバウンド需要に対応する例としては訪日客が期待する「メイドインジャパンの土産物」需要がメーカーに新たな国内生産拠点の拡大をもたらしている事例などがある。
・ジェトロの対日直接投資支援件数の推移を見ると、2014年以降、観光分野の支援案件数、成功案件数とも急増している。業種別にみると、航空会社、フェリー会社などの交通分野、国内旅程を扱う旅行会社による進出が多い。

10.農林水産物・食品輸出額が過去最高の7,451億円

・2015年の日本の農林水産物・食品輸出額は、前年比21.8%増の7,451億円と3年連続で増加し、過去最高を更新した。政府の輸出戦略中間目標「2016年に7,000億円」を1年前倒しで達成できたことになる。主要品目では、農産物の内、りんご、牛肉、ウイスキー、緑茶の輸出額が初めて100億円を超えた。
・ジェトロでは、国内各地の輸出案件を発掘し、他地域の先行モデルになることを目指す「一県一支援プログラム」を2013年7月から全都道府県で立ち上げ、53案件を展開してきた。同プログラムを活用した輸出成約額は3年間の累計で約22.5億円に上る。2016年度も、15案件で品目変更し、継続して新規輸出品目発掘に取り組む。
・日本はTPP交渉の結果、農林水産物・食品の重点品目全てで関税撤廃を獲得した。TPP域内で輸出額の多い米国、ベトナム向けでは、コメ、日本酒、牛肉、水産品を始めとする輸出重点品目の関税が即時、又は段階的に撤廃される見通しであり、市場アクセスの向上が期待できる。
・2016年5月、政府が「農林水産業の輸出力強化戦略」を決定したことを受け、ジェトロでも「農林水産物・食品輸出戦略実行本部」を2016年6月に立ち上げ、輸出支援体制をさらに強化していく。

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[ジェトロ]
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