IT人材の最新動向と将来推計に関する調査 

2016年06月10日
経済産業省は、IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果を発表。

【調査の背景と趣旨】

・2010年代の後半から2020年にかけて、産業界では大型のIT関連投資が続くことや、昨今の情報セキュリティ等に対するニーズの増大により、IT人材の不足が改めて課題となっている。また、ビッグデータ、IoT等の新しい技術やサービスの登場により、今後ますますIT利活用の高度化・多様化が進展することが予想され、中長期的にもITに対する需要は引き続き増加する可能性が高いと見込まれる。

・しかし、我が国の人口減少に伴い、労働人口(特に若年人口)が減少することから、今後、IT人材の獲得は現在以上に難しくなると考えられる。このように、IT需要の拡大にもかかわらず、国内の人材供給力が低下することから、IT人材不足は今後より一層深刻化する可能性が高い。

・ITは今後も我が国産業の成長にとって重要な役割を担うことが強く期待されている。こうしたITの重要性を踏まえると、今後も十分なIT人材を確保することは、我が国にとってきわめて重要な課題であるといえる。本調査は、こうした問題意識のもとで、IT人材の中長期的な需給動向を展望するとともに、今後のIT人材の確保・育成に向けた方策を検討するものである。

【調査結果】

■IT人材動向の将来予測

IT人材の「将来の供給見通し」に関する推計
・本調査では、IT人材の供給予測のために産業人口の推移に関するマクロモデルを構築し、現在のIT関連産業の年代別の従事者数や今後の我が国の人口動態予測等に基づき、IT関連産業の産業人口に関する将来推計(本調査では「マクロ推計」という。)を実施。
・マクロ推計結果によれば、我が国の人口減少に伴って、2019年をピークにIT関連産業への入職者は退職者を下回り、産業人口は減少に向かうと予想される。また、IT関連産業従事者の平均年齢は2030年まで上昇の一途をたどり、産業全体としての高齢化も進むことも把握された。

IT人材の「不足規模」に関する推計
・IT関連産業の産業人口に関する将来推計(マクロ推計)の一環として、人材の不足状況や今後の見通しに関するアンケート調査結果に基づき、現在及び将来の人材不足数に関する推計も実施。
・マクロ推計によれば、2015年時点で約17万人のIT人材が不足しているという結果になった。さらに、前頁で示されたとおり、今後IT人材の供給力が低下するにもかかわらず、ITニーズの拡大によってIT市場は今後も拡大を続けることが見込まれるため、IT人材不足は今後ますます深刻化し、2030年には、(中位シナリオの場合で)約59万人程度まで人材の不足規模が拡大するとの推計結果が得られた。

■今後の市場成長の鍵を握るIT人材

今後注目すべき先端IT技術
・クラウド、ビッグデータ、IoTのほか、人工知能やロボット、デジタルビジネス、そして情報セキュリティなど、近年注目されるようになった先端IT技術は数多く挙げられる。このような先端IT技術のうち、今後特にその重要性が増すものを把握するという観点から、今回実施したアンケート調査に基づいて、「これまで影響を与えてきたもの」と「これから影響を与える可能性が高いもの」についての把握を試みた。
・左下図を見ると、「クラウドコンピューティング」、「情報セキュリティ」、「モバイル端末」などは、「これまで特に大きな影響を与えてきた」と認識されていることがわかる。また、「ビッグデータ」、「IoT(/M2M)」、「人工知能」については、「これまで」よりも「これから特に大きな影響を与える」と認識されていることが読み取れる。これらの3つについては、右下図を見ても、他の項目よりも「今後大幅に市場が拡大する」という見方が強いことがわかる。

先端IT技術を担う人材(先端IT人材)の不足見込み
・将来的なIT関連市場の拡大を実現する上で、前頁に挙げた「ビッグデータ」、「IoT」、「人工知能」等の先端IT技術が重要な鍵を握ると考えられる。
これらの先端IT技術は、今後、産業界を大きく変革する可能性があると指摘されており、今後の活用に向けた期待は非常に大きい。
・こうした先端IT技術のサービス化や活用を担う人材を本調査では「先端IT人材」と呼び、その不足状況や課題についても把握を試みた。
・本調査で実施したアンケートによると、今後「量」・「質」ともに「特に大幅に不足する」と見込まれる人材は、 「ビッグデータ」、「IoT」、「人工知能」のほか、「ロボット」に関する人材という結果となった。これらの人材のほか、 「クラウドコンピューティング」、「情報セキュリティ」、「デジタルビジネス」等を担う人材も不足感が強いという結果となっている。

先端IT人材の人材数・不足数に関する推計
・前頁の結果によると、先端IT人材は、今後特に大幅に不足することが見込まれている。こうした問題意識を踏まえて、今回の調査では、p.14の調査結果から、今後特に大幅な市場拡大が予想される「ビッグデータ」、「IoT」、「人工知能」を担う人材について、アンケート結果に基づき、現在及び将来の人材数・不足数についての推計を行った。
・推計の結果、IT企業及びユーザー企業(産業界全体)の現時点での先端IT人材は約9.7万人、現時点での不足数は約1.5万人となった。
2020年までにこの人材数が12.9万人、不足数が4.8万人にまで拡大するという試算結果が得られた。

情報セキュリティ人材の人材数・不足数に関する推計
・情報セキュリティ対策を担う人材は、これまでと同様に、今後も産業界全体において非常に重要な役割を担うことが強く期待されている。また、現在は、「情報処理安全確保支援士」制度の創設等、政策的な取組も進められている。2014年7月に、情報セキュリティ人材に関しては、約8.2万人が不足しているとの推計結果が発表されているが、今回の調査では、最新の動向を踏まえ、改めてその人材数や不足数についての推計を実施した。
・推計の結果、IT企業及びユーザー企業(産業界全体)の現時点での情報セキュリティ人材は約28.1万人、現時点での不足数は約13.2万人となった。2020年までにこの人材数が37.1万人、不足数が19.3万人にまで拡大するという試算結果が得られた。

■攻めのIT投資に関する動向と課題 ユーザー企業編

攻めのIT投資の実態と意識
・「攻めのIT投資」についての議論が行われる際、そのIT投資の目的が重視されることが多い。こうした点を踏まえて、今回のアンケート調査において、自社におけるIT投資の目的について尋ねたところ、「付加価値や業績の向上」に直結する「攻めのIT投資」に該当する目的よりも、「コスト削減」等の効率化を重視する「守りのIT投資」において多く見られる目的のほうが多いという結果となった。
・我が国企業において「守りのIT投資」が主流になりがちな背景として、右図のように、企業にとっての「付加価値の向上」や「差別化」の重要性は十分に認識されているものの、ITの強みを「コスト削減」や「低価格志向」にあるとする見方も一定を割合を占めること(中でも特にユーザー企業においてこの傾向が強いこと)や、「コスト削減」や「低価格志向」のほうが実現しやすいとする考え方も根強いこと、などが挙げられる。

攻めのIT投資の重要性と攻めのIT人材
・今回のアンケート調査において、「攻めのIT投資」が、実際に現在自社で実現されているかどうかを尋ねたところ、「強くそう思う」、「ある程度そう思う」という回答は、半数以下となり、多くのIT人材が現在自社では「攻めのIT投資」が実現されていないと感じていることが把握された。
・しかし、今後、「攻めのIT投資」が重要になると思うかを尋ねた設問では、4分の3近くの回答者が「強くそう思う」、「ある程度そう思う」と回答し、多くの回答者が「攻めのIT投資」の重要性を認識していることが示された。
・さらに、「攻めのIT投資」を促進する人材(攻めのIT人材)の不足状況については、8割を超える回答者が、「大幅に不足している」「やや不足している」と回答し、「攻めのIT人材」の不足が深刻であることが明らかになった。
・「攻めのIT人材」が特に不足する部門としては、「情報システム部門」を挙げる回答が多い。

攻めのIT投資と攻めのIT人材に関する課題
・攻めのIT人材に関する課題(左図)として最も多いのは、「取り組みを主導できる人材が不足している」こととなった。攻めのIT投資を牽引できる中核人材の不足が最も大きな課題となっている。
・その他、2番目に回答が多いのは「技術系の人材が不足していること」となった。先端IT技術を効果的に導入・活用することは、「攻めのIT投資」を成功させる上での重要なポイントの一つであり、そのためにも技術に関する十分な知見を持った人材に対するニーズが高い状況にあると考えられる。
・「攻めのIT投資」を促進する上での課題(右図)としては、「情報システム部門」や「経営層」、「事業部門」の「意識改革」という回答が多く挙げられる結果となった。その他、情報システム部門において「攻めのIT投資」を担える人材の育成も重要な課題であるといえる。

■ITベンダーの現状認識と課題 ITベンダー編

ITベンダーのビジネス環境認識
・今回の調査では、ITベンダーに対して、IT関連業界の現在及び今後のビジネス環境に対する認識についても尋ねた。
・左図の結果によれば、「今後、IT関連市場は縮小する」という設問に対しては「そう思わない」という回答が半数を超えているものの、「今後、受託情報システム開発業務は縮小する」に対しては、「そう思う」という回答が半数を超える結果となっている。つまり、今後、IT関連市場が拡大しても、ITベンダーの主力事業である受託情報システム開発業務は縮小するのではないかという危機感を感じている人材が多いことがわかる。
・さらに、「今後、ITベンダー間の価格競争が激化する」、「今後、ITベンダー間で受注競争が激化する」、「今後、突出した技術やサービスを持たないITベンダーは淘汰される」等の設問でも「そう思う」との回答が7割を超えており、強い危機感を感じている人材が多い。
・こうした結果を見ると、ITベンダーの人材は、今後の業界動向を非常に厳しく捉えているとみることができる。先端IT技術の登場やIT利活用の高度化、ユーザー企業の要求の高度化等によって、企業間の競争がますます厳しさを増すなかで、今後のITベンダーには、新しい技術の積極的な活用や新たなサービスの創出により競争力のあるサービスを提供し、厳しいビジネス環境を勝ち抜いていくことが求められている。

ITベンダーにおいて今後最も不足する人材
・今後予想される厳しい競争環境を勝ち抜くために、ITベンダーに対して、「今後5年程度の間に最も不足する人材」を尋ねたところ、左図のような結果となった。若手人材としては「開発系人材(アプリケーション関連)」、中堅人材としては「プロジェクトマネージャー」、「幹部・指導者」としては「新事業開発・事業創造人材」が最も不足するという結果となった。今後激化する競争環境を勝ち抜くために、ITベンダーの「幹部・指導者」に対しては、新事業開発や事業創造を担う役割が強く求められていることが読み取れる。
・ITベンダーにおける人材の育成に関する課題を尋ねたところ、「中途/新卒採用で良い人材を採用したいが、求める人材が採用できない」という回答が最多となった。採用活動において自社が求める人材が思うように採用できないことが、ITベンダーにおける最大の課題となっているといえる。

ITベンダーが今後目指すべき方向性
・今回の調査では、今後ITベンダーが目指すべき方向性として、「顧客との関係」と「グローバル市場における地位」の2点を尋ねた。
・「顧客との関係」に関する左図の結果をみると、ITベンダーの人材のうち、3分の1を超える回答者が、「顧客企業のITビジネスを共に創造する『ビジネスパートナー』となるべき」と考えており、この回答が、すべての選択肢の中で最も多くなっている。
・また、日本のITベンダーのグローバル市場において目指すべき地位についても、ITベンダーの人材のうち約4割近くの回答者が、「グローバルに戦えるIT製品・サービスを生み出し、“世界に誇るトップ産業”になること」と回答しており、この回答が、すべての選択肢の中で最も多くなっている。
・ITベンダーの人材は、今後の厳しいビジネス環境を認識しつつも、今後目指すべき方向性としては高い目標を志向していることが読み取れる。

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[経済産業省]
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