企業のX-Techビジネスの取り組みに関する動向調査 

2017年02月10日
NTTデータ経営研究所は、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューションが提供する「NTTコムリサーチ」登録モニターを対象に、このたび「企業のX-Techビジネスの取り組みに関する動向調査」を実施しました。

昨今FinTechに代表されるような、「業界」×「テクノロジー」という構図から生み出されるサービスや製品が注目を集めています。これは金融業界に限ったものではなく、様々な業界で同様の動きが見られます。私共はこれらの今までの常識を打ち破るような洗練されたテクノロジーをコアとした新しいサービスや製品を総称して「X-Tech(エックステック)」と呼んでいますが、その取り組みの実情はあまり知られていないのではないでしょうか。

どのくらいの数の企業が、どのような技術を活用して、どのような種類のX-Techに取り組んでいるのか、期待通りの成果が得られたのか、まずはそれらを知ることで現状を把握し、次いでX-Techビジネスで成功を収めるにはどのような要因があるのか確認することで、今後X-Techビジネスに臨んだり事業創出の判断をしたりするにあたっての検討材料とすることができるはずです。そこで、本調査では以下の項目について調査を実施しました。

・X-Techビジネスへの取り組み状況
・X-Techビジネスの成功要因と失敗要因
・アライアンスなど外部との連携有無の状況

特に、昨今のベンチャーブームの中で、大企業もベンチャー企業も積極的にX-Techの新規ビジネスに取り組んでいます。しかし、果たしてX-Techビジネスの立ち上げや運用にあたっての要諦や成功要因について、大企業とベンチャー企業で共通である点と異なっている点はどこなのでしょうか。さらに、一般的な新規ビジネスとテクノロジーを活用しているX-Techビジネスという観点からも共通点と相違点を探るとどのような結果となるのでしょうか。

以上の動機のもと、本調査では以下の観点に着目しながら考察を展開しました。

・大企業 vs ベンチャー企業
・従来の一般的な新規ビジネス vs X-Techの新規ビジネス

【調査結果の考察サマリ】

 FinTechに代表されるようなX-Techビジネスの成功要因としては、“従来の一般的な新規ビジネス vs X-Techの新規ビジネス”の観点における相違も、“大企業 vs ベンチャー企業” の観点における相違も、結論から言うと「いずれも成功要因に大きな違いは無い」と言える。つまり、大企業もベンチャー企業も、従来の一般的な新規ビジネスもX-Techの新規ビジネスも概ね共通的な成功要因が存在している。

 まず、“従来の一般的な新規ビジネス vs X-Techの新規ビジネス” の観点においては、新規ビジネスの成功要因としては、X-Tech独自の特色、X-Techらしさと言えるものは多くなく、主に “ヒト” に関わる部分である。具体的には、人材面においては外部人材の活用としての成功要因に「ITベンダーのようなIT専門家の活用」「グロースハッカーの活用」を挙げられている点や、“ヒト” に関する成功要因に「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材」を挙げられている点などが、テクノロジーをコアとするX-Techならではの要因である。

 続いて、“大企業 vs ベンチャー企業”の観点においては、保有する経営資源(特に“カネ”)の大小、組織、戦略やビジネスモデルの立案・設計などに違いが見られたが、これは前述のとおりX-Techらしさというよりは一般的な新規ビジネスにおける従来からある立ち上げ方の相違と言える。

 以上をもって、現在におけるX-Techの新規ビジネスにおいても、X-Techが今後さらにブームになろうとも、戦略やビジネスモデルの立案・設計、アライアンス、ビジネスの推進方法、ヒト・モノ・カネにおける要諦は、昔も今も大きく変わらない成功要因の “王道” と呼べるものであり、これを踏まえるべきであるとわれわれは結論づけている。

【主な調査結果】

1.X-Techビジネスの取り組み実態

◆X-Techビジネスの認知度
認知度の高いX-Techは、「金融:FinTech (17.9%)」である。

◆X-Techビジネスの経験有無
過去・現在・未来でX-Techビジネスに何らかの形で携わる経験を有する人は、全体(12,521人)の6.8%である。つまり、15人に1人がX-Techビジネスの経験を有する。特に、ベンチャー企業においてはベンチャー全体(423人)の26%、つまり4人に1人がX-Techビジネスの経験を有する。

◆X-Techビジネスに取り組む目的
X-Techに取り組む目的は、最も多いのが「収益拡大のための新規事業(直近よりも将来の中核事業育成) (29.2%)」、次点が「収益拡大のための新規事業(直近の売上高へ貢献) (27.7%)」、「収益拡大のための新規事業(事業ポートフォリオの拡大) (23.0%)」と続く。即ち、“収益拡大のための新規事業” の割合が総じて高い。

◆X-Techビジネスの取り組み結果
X-Techの取り組み結果は、「期待通りの成果」「期待以上の成果」という人が55.5%と、半数以上の人がX-Techを“成功” と位置付けている。

◆取り組まれているX-Techビジネスの種類
取り組み経験のあるX-Techの種類は、最も多いのは「金融:FinTech (39.0%)」、次点が「ヘルスケア:HealthTech (17.0%)」、「教育:EdTech (13.8%)」と続く。

◆X-Techに取り入れられた先進テクノロジー
取り組み経験のあるX-Techに取り入れられた先進テクノロジーは、最も多いのは「ビッグデータ (44.4%)」、次点が「AI (36.1%)」、「IoT (23.0%)」と続く。

◆X-Techビジネスの本質的な提供価値
取り組み経験のあるX-Techの本質的な提供価値は、最も多いのは「従来と比べ明らかに、“効率が良い” (30.8%)」、次点が「従来と比べ明らかに、時間的に “早い・短い” (29.2%)」、「従来と比べ明らかに、価格や費用が“安い・得をする” (28.3%)」と続く。

2.X-Techビジネスの成功要因

◆ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計
主な成功要因としては、大企業では「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感(40.9%)」、「顧客ニーズの明確化(40.0%)」であった。ベンチャー企業においては「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感(39.4%)」、「有望なターゲットセグメントの特定(33.8%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における推進方法
主な成功要因としては、大企業では「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進(41.8%)」、「とにかくスピード。全てをクイックに推進(38.2%)」であった。ベンチャー企業においては「とにかくスピード。全てをクイックに推進(33.8%)」、「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進(32.4%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における “組織”
主な成功要因としては、大企業では「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ(39.1%)」、「経営層のコミットメントやリーダーシップ(36.4%)」であった。ベンチャー企業においては「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ(39.4%)」、「経営層のコミットメントやリーダーシップ(23.9%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における “ヒト”
主な成功要因としては、大企業では「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材」、「経営者やマーケターとしての知識やスキルセットを有する経営人材」「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材」が39.1%で並んだ。ベンチャー企業においては「経営者やマーケターとしての知識やスキルセットを有する経営人材(46.5%)」、「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(39.4%)」、「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材(25.4%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における “モノ”
主な成功要因としては、大企業においてもベンチャーにおいても「知名度やブランド力」、「顧客基盤・人脈」という回答が上位を占めた。大企業では「知名度やブランド力(37.3%)」、「顧客基盤・人脈(30.9%)」、ベンチャーでは「知名度やブランド力(39.4%)」、「顧客基盤・人脈(30.9%)」が挙げている。

◆ビジネスの構築・運用における “カネ”
主な成功要因としては、大企業では「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(44.5%)」、「様々なプレイヤー(企業やベンチャーキャピタル等)からの出資を受けた(38.2%)」であった。ベンチャー企業においては「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった(45.1%)」、「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(38.0%)」であった。

◆外部の人的リソース活用
主な成功要因としては、大企業では「ITベンダーのようなITの専門家の活用(31.8%)」、「グロースハッカーと呼ばれるITとマーケティングの両方に精通する専門家の活用(30.0%)」であった。ベンチャー企業においては「ITベンダーのようなITの専門家の活用(31.0%)」、「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用(29.6%)」であった。

3.X-Techビジネスの失敗要因

◆ビジョンや戦略、ビジネスモデルの立案・設計
主な失敗要因としては、大企業では「社会課題の解決や新しい価値の創出、イノベーションを実現させるといった強い意志・使命感(33.3%)」、「顧客ニーズの明確化(20.0%)」、「マネタイズ(収益モデル)の設計(20.0%)」であった。ベンチャーにおいては「情報・データの収集・分析・活用(30.0%)」、「戦略やビジネスモデルは敢えて固めず、構築・実行フェーズへ(30.0%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における推進方法
主な失敗要因としては、大企業では「やってみて考えるトライ&エラーで推進(35.6%)」、「とにかくスピード。全てをクイックに推進(31.1%)」であった。ベンチャーにおいては「しっかり計画を立て、どっしり腰を据えて推進(30.0%)」、「周囲は気にせず、とにかく自分達がやりたい事・作りたい事だけを推進(30.0%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における “組織”
主な失敗要因としては、大企業では「経営層のコミットメントやリーダーシップ(35.6%)」、「関連部署の調整や協力(31.1%)」であった。ベンチャーにおいては「経営層のコミットメントやリーダーシップ(50.0%)」、続いて20.0%で「X-Techビジネスの構築・運用する組織のリーダーシップ」「関連部署の調整や協力」「メンバーへの権限移譲」「メンバーのモチベーション」の4項目が並んだ。

◆ビジネスの構築・運用における “ヒト”
主な失敗要因としては、大企業では「テクノロジーに関する知識やスキルセットを有する技術人材(33.3%)」、「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(28.9%)」、「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(28.9%)」であった。ベンチャーにおいては「既存ビジネスや常識に囚われない柔軟な発想を有する人材(30.0%)」、「営業人材(30.0%)」であった。

◆ビジネスの構築・運用における “モノ”
主な失敗要因としては、大企業では「知名度やブランド力(24.4%)」、「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用(22.2%)」、「情報・データの収集・分析・活用(22.2%で)」であった。ベンチャーにおいては30.0%で「知名度やブランド力」、「元々保有していたITサービスやIT基盤の活用」「情報・データの収集・分析・活用」が同率で最多であった。

◆ビジネスの構築・運用における “カネ”
主な失敗要因としては、大企業では「スモールスタートで最初は予算(投資)をあまりかけなかった(44.4%)」、「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(35.6%)」であった。ベンチャーにおいては「予算(投資)が従来の新規事業よりも大きかった(30.0%)」、「すぐに黒字化を求めず、中長期的スパンで先行投資をした(3年間や5年間は投資期間)」が同率で最多となった。

◆外部の人的リソース活用
主な失敗要因としては、大企業では「活用しなかった(社内人材で対応した)(33.3%)」、「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用(20.0%)」であった。ベンチャーにおいては「コンサルタントのようなビジネスの専門家の活用(40.0%)」、次点は20.0%で「金融機関や監査法人のような財務の専門家の活用」「起業家のようなイノベーションの専門家の活用」「活用しなかった(社内人材で対応した)」の3項目が並んだ。

4.X-Techビジネスの構築・運用における提携・出資・買収 

◆X-Techビジネスの構築・運用における提携・出資・買収のアクション状況
X-Techの構築・運用にあたって、最終的に提携・出資・買収のアクションを取った割合は、全体の約6割にあたる(「有望企業へ業務提携し、提携先企業と積極的に協業・交流した (21.8%)」「有望企業へ出資または買収したが、カネだけ出して出資先企業には介入しなかった  (21.4%)」「有望企業へ出資または買収し、出資先企業と積極的に協業・交流した (16.6%)」)。

加えて、そのアクション結果として「期待以上の成果が得られている」「期待通りの成果が得られている」の2つを “成功” と定義した場合、最終的に提携・出資・買収のいずれかに至った企業は高い割合で “成功” している(「有望企業へ出資または買収し、出資先企業と積極的に協業・交流した (80.2%)」「有望企業へ出資または買収したが、カネだけ出して出資先企業には介入しなかった (71.2%)」「有望企業へ業務提携し、提携先企業と積極的に協業・交流した (64.2%)」)。


<本調査におけるアライアンスの定義>

 戦略的な目標を共有する企業間で協力関係を結ぶこと。アライアンスの種類は、資本提携、業務提携、技術提携、オープンイノベーションとし、それぞれの定義は下記の通りとする。

・資本提携=一方の企業が他方の企業の株式を保有する、または双方で株式を保有しあうことを通じて、事業上の協力関係を構築すること。M&Aも資本提携に内包している。
・業務提携=複数の企業が業務上の協力関係を築くこと。販売提携、生産提携も業務提携に内包している。
・技術提携=事業上重要な技術を供与する、もしくは相互に供与する関係を構築すること。
・オープンイノベーション=自社の業務やノウハウ・技術の一部を外部に公開し、広く外部のアイディアや技術を活用して自社の課題を解決する取り組み


【調査概要】
調査対象:NTT コムリサーチ(*1)クローズド調査
調査方法:非公開型インターネットアンケート
調査期間:2016 年 10月 3 日~2016 年 10 月 24 日
有効回答者数:12,521 人

詳しいリサーチ内容はネタ元へ
[NTTデータ経営研究所]
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