マイナス金利政策による中小企業の資金調達への影響調査 

2016年10月12日
商工中金 調査部は、マイナス金利政策による中小企業の資金調達への影響調査を実施。

【調査結果の要旨】

~約 4 割の中小企業がマイナス金利政策効果で資金調達を検討~

1. マイナス金利政策が中小企業の資金調達に与える影響
・マイナス金利政策で借入金利が低下した場合に新規資金を調達する企業は全体の 36.8%となった。
・新規資金調達の目的は資金繰り安定化が最も多く、設備資金や増産・増員が続く。
・新規資金を調達しない理由として、66.1%が借入負担増加への懸念を挙げたほか、投資すべきものが見当たらないとする回答も 30.3%となった。
・資金調達の際に注目する金利として、長短プライムレートや TIBOR が挙がった一方で、特になしとする中小企業も 30.6%あった。

2. 中小企業の資金運用への影響
・73.0%の中小企業が、マイナス金利政策導入後も資金運用方法として預金以外には変更しないとした。

【調査結果】

1. マイナス金利政策が中小企業の資金調達に与える影響

2016 年 1 月に日本銀行は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入を決定し、わが国で初めてのマイナス金利政策が始められた。ここでは、マイナス金利政策で期待される政策効果のうち、中小企業の資金調達への影響等にかかるアンケート調査を実施し、その結果について取りまとめた。

1-1.新規資金の調達への影響
マイナス金利政策の効果として借入金利が低下した場合に、新規資金調達の有無について聞いたところ(図表 1-1)、「新規資金を調達する」とした中小企業は 36.8%となった。一方で、借入金利が低下しても「新規資金を調達しない」とする企業も 24.0%あり、資金需要が力強さに欠けている状況を表わしている。
また、「分からない」との回答も 39.2%あり、経済環境を見極めてから借入などの経営判断を下そうとする姿勢が窺える。

借入金利が低下した場合の新規資金調達の有無を、現在の業況別にみると(図表 1-2)、新規資金を調達するとの回答割合は現在の業況が良いほど高く、「非常に良い」では 44.5%となった。業況の良い企業では、先行投資や業容拡大などを目指した「前向きな資金調達」へ取り組む際に、借入金利の低下が後押ししているものとみられる。
ただし、現在の業況が「非常に悪い」企業でも新規資金調達する割合は 41.4%と高い。新規の資金調達により資金繰りを安定化し、業況回復の足掛かりとなることを期待しているものと考えられる。

1-2.新規資金を調達する目的
「新規資金を調達する」とした中小企業にその目的を尋ねると(図表 1-3)、「資金繰り安定化」が 71.4%と最も高くなった。中小企業では資金繰りへの不安が強いため、マイナス金利政策で借入金利が低下した場合に、資金繰りの安定性を強化しようとする戦略が窺える。
「設備の代替や補修などの設備投資資金」(36.8%)と「新設設備の投資資金」(29.0%)の設備投資関連が続いた。設備投資は一度に多額の投資資金が必要となる場合も多く、金利低下で投資意欲が刺激されている側面もみられる。
また、「従業員の増員」が 10.9%と続き、人手不足を低利の資金で補おうとする様子が窺える。

新規資金の調達の目的を製造業、非製造業別にみると(図表 1-4)、「設備の代替や補修などの設備投資資金」、「新設設備の投資資金」や「研究開発資金」で製造業が非製造業を上回った。一方で、「販路拡大・事業規模拡大」や「従業員の増員」では非製造業が製造業を上回った。製造業での生産設備や非製造業での販路や労働力の増強など、各業種の収益基盤を低利の資金調達によって強化しようとする様子が窺える。

新規資金の調達の目的を、現在の業況別にみると(図表 1-5 左)、「新設設備の投資資金」、「販路拡大・事業規模拡大」や「従業員の増員」といった「前向きな」投資目的について、現在の業況が「良い」とする企業の回答割合が高くなっている。現在の業況が比較的良い企業では、自社の業容拡大に向けた資金調達に際して、マイナス金利政策による借入金利の低下を好機と捉えているとみられる。
他方で、「資金繰り安定化」を目的とした新規資金の調達は(図表 1-5 右)、現在の業況が「悪い」とする企業で高く、これらの中小企業では、新規投資よりも資金繰りの安定化による経営基盤の確保を優先していることが分かる。

1-3.新規資金を調達しない理由
借入金利が低下しても「新規資金の調達をしない」とする中小企業に、資金調達しない理由を尋ねたところ(図表 1-6)、「借入を増やしたくない」が 66.1%と最も高くなった。金利低下のメリットを享受するよりも、借入負担の増加による経営の自由度の低下を懸念したものとみられる。
「投資すべきものが見当たらない」が 30.3%と続き、投資意欲の低下が感じられる。また、「自己資金が潤沢にある」(17.3%)や「金利が低下しても資金調達のメリットが少ない」(14.0%)の回答もあり、マイナス金利政策によるメリットが行き渡っていない状況が見受けられた。

借入金利が低下しても資金調達しない理由を、製造業、非製造業別にみると(図表 1-7)、「投資すべきものが見当たらない」が非製造業で 33.5%と製造業を上回った。

借入金利が低下しても資金調達しない理由を、現在の業況別にみると(図表 1-8)、「借入を増やしたくない」とする回答は現在の業況に関わらず高い割合となっている。
「自己資金が潤沢にある」とするのは、現在の業況が「非常に良い」や「良い」とする中小企業で高くなっている。
これらの企業では投資案件があっても自己資金で対応する余裕があり、マイナス金利政策の効果で借入金利が低下しても、そのメリットを享受する必要が無いと感じていることが窺える。

1-4.資金調達に際して注目する金利指標
中小企業が資金調達する際に日頃から注目している金利指標を尋ねると(図表 1-9)、「長期プライムレート(以下、長プラ)」が 40.6%と最も多く、「短期プライムレート(以下、短プラ)」の 31.1%、「TIBOR(東京市場銀行間取引金利)」の 24.9%と続いた。多くの中小企業でプライムレート(※)が注目されているほか、銀行間取引金利のTIBOR も注目を集めている。
一方で、「特になし」とする中小企業も 30.6%あり、金融機関が提案する金利や同業者との情報交換を重視するとの声も聞かれた。
(※)プライムレート:金融機関が最も信用力の高い企業に貸出を行う際の最優遇金利で、貸出期間 1 年未満の場合に短プラを、1 年以上の場合に長プラを適用する。

中小企業が注目する金利指標を企業の年商別にみると(図表 1-10)、長プラ・短プラはどの年商規模でも注目度が高く、年商規模による大きな違いは見られなかった。TIBORへの注目は年商規模が大きくなるほど高まり、年商 50 億円超の企業では 64.8%にのぼる。年商規模が大きな企業では TIBOR を基準とした金利設定が普及しており、注目度が高くなっているとみられる。加えて、10 年国債利回りも同様に年商規模が大きいほど注目されている。
一方で、年商規模が小さい企業ほど「特になし」との回答割合が高く、年商 10 億円以下の企業では 37.6%にのぼった。

2. 中小企業の資金運用への影響

2-1.資金運用方法の変更の有無
マイナス金利政策導入後の資金運用を、預金(普通預金・定期預金)以外に変更するかを尋ねたところ(図表2-1)、「預金以外に変更することはない」が 73.0%と回答の大部分を占めた。「預金以外の運用商品の利回りが現状より上昇すれば変更を検討する」(7.9%)、「変更を検討している」(6.1%)、「金融機関から預金以外の運用商品の提案があった」(5.7%)、「預金利率が現状より低下すれば変更を検討する」(5.6%)、といった運用方法の変更検討する回答は少なく、また「既に変更した」とする中小企業は 5.5%にとどまった。マイナス金利政策によって預金金利が低下しても、預金以外の運用方法への変更を検討する中小企業は少数にとどまるとみられる。

資金運用の預金以外への変更について、企業の年商別にみると(図表 2-2 左)、「預金以外に変更することはない」との回答は、どの年商規模でも 70%を超える高水準にあるが、特に年商が「50 億円超」では 80%を超えており、年商規模が大きいほど預金以外に運用方法を変更しない傾向にある。
同様の傾向は資金運用方法の「変更を検討している」との回答にもみられる(図表 2-2 右)。変更を検討する企業の割合は年商規模が小さいほど高く、年商規模が大きくなるにつれてその割合が低くなる。
金融機関から提案を受けている運用商品として(図表 2-3)、投資信託などの元本保証がない金融商品が多く挙がっている。年商規模の大きい企業では、預金からこれらの運用商品へ変更する考えは少なく、リスク回避的な傾向がみられる。


【調査概要】
調査目的:マイナス金利政策による中小企業の資金調達への影響調査
調査時点:2016 年 7 月 1 日時点
調査対象先:当金庫取引先中小企業 9,956 社、有効回答数 5,170 社(回収率 51.9%)
調査方法:調査票によるアンケート調査(郵送自記入方式)

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