株式価値向上に向けた取り組みについての調査(上場企業1,056社、機関投資家152社を対象) 

2016年03月23日
生命保険協会は、株主・投資家の立場から、株式価値向上に向けた取り組みについて、昭和49年度より42年間に亘り継続的に調査を行っております。

平成27年度は、上場企業1,056社、機関投資家152社を対象にアンケート調査を実施し、現状分析を行った上で、当協会からの要望をまとめました。当調査においては、同じアンケート項目に関して企業と投資家の回答を比較することで両者の意識がどのように異なるのか、あるいは従来から継続して調査を行っている項目についてどのような変化が見られるのか、といった視点を中心に分析を行っております。

【調査概要】

2章(1)コーポレート・ガバナンス向上のための取り組みについて

・ 投資家は、日本企業のコーポレート・ガバナンスの課題を、中長期的な経営ビジョン・スタンスが明確になり経営の透明性が確保されることや、株主や社外取締役など外部の視点が経営に反映されマネジメントに適切な牽制が働くことと捉えている【図表1】。

・ コーポレートガバナンス・コードの策定を受けて、企業は今後「取締役会の実効性の評価」に取り組もうとしている一方、投資家は「経営計画・経営戦略」が見直されることを期待している【図表2】。また、双方が経営戦略の策定を取締役会の重要な役割と認識しているものの【図表3】、投資家は企業が認識する以上に、経営戦略に関する議論の充実を期待している【図表4】。
経営ビジョンを明確化し、経営の透明性を高めていくために、取締役会での中長期的な企業価値向上に資する経営戦略の議論の充実を期待したい。

・ コーポレートガバナンス・コードの策定を受けた今後の取り組みとして、「独立した社外役員」について、投資家の期待は企業の認識より大きい【図表2】。企業はこれまでに「社外役員の拡充」に最も取り組んできたものの【図表4】、半数弱の企業において複数名の社外取締役が選任されていないこともあり【図表5】、投資家は社外取締役の拡充について十分な対応が図られたとまでは認識していないものと捉えられる。

・ 企業・投資家の双方が、適切な社外取締役が選任され、取締役会での議論を通じて社外取締役が実質的に機能発揮していく重要性を認識している【図表6】。社外取締役が孤立することなく発言しやすい環境を構築していくための第一歩として、投資家の期待が大きい社外取締役の拡充が今後一層進むことを期待したい。

2章(2)株主総会での議決権行使について

・ 株主の議決権行使を充実させるために、投資家は「議案の説明充実」を最も望んでおり、企業との認識ギャップは大きい【図表7】。議案の説明充実に向けて、投資家は、招集通知での説明充実を最も期待しているほか、継続的な対話やホームページ等の活用への期待も高い【図表10】。また、過年度に反対の多かった議案に対しては、投資家は、企業が反対理由をしっかりと分析した上で、対話や招集通知において企業の考え方が十分に示されることを期待している【図表12】。議決権行使は投資家が意思表示を行う貴重な機会であり、株主が適切な判断を下せるよう、企業には投資家の視点に立った議案内容の説明充実を要望したい。

・ また、投資家が企業の状況を十分に把握し賛否判断を行う上で、十分な検討時間が確保されることの重要性も大きい。投資家の期待が高い招集通知の早期発送・早期開示や、集中日の回避など【図表7】【図表14】、検討時間確保のための環境改善に向けて様々な工夫が凝らされることを要望したい。

3章(1)経営計画の設定・公表

・ 企業・投資家双方が、中期経営計画を通じて経営ビジョンを明確化する重要性を認識している一方で【図表15】、中期経営計画の内容充実に向けて、投資家は長期的な経営ビジョン・スタンスの説明を最も改善すべき点と捉えている【図表17】。

・ 数値目標を伴う中期経営計画の公表は一定程度浸透したものの【図表16】、投資家は具体的な経営目標やその達成度合いを測る指標の在り方について課題意識を抱いている【図表3】。また、投資家は、数値目標を達成するための具体的な実現プロセスが、事業環境や見通しに関する分析を踏まえた事業戦略として明示されることも期待している【図表17】。経営ビジョンを明確化する上で、数値目標と事業戦略の両方を兼ね備えた経営計画が公表されることを期待したい。

3章(2)資本効率について

・ 投資家は、経営指標としてROEを重視している一方、売上・利益の絶対額を重視する企業は多く、両者のスタンスの乖離は大きい【図表18】。企業には、投資家の視点を踏まえた経営目標を設定・公表し、調達した資金を効率的に活用して収益性を高める経営が求められていると言える。

・ 日本企業の平均ROEは8.0%と、売上高純利益率が低いことを主因に、引き続き日米のROE水準には大きな乖離のある状況が続いている【図表21】。資本コストに対するROE水準の見方について双方の認識ギャップは大きいほか【図表23】、投資家が中長期的に求めるROE水準と企業の実態には乖離がある【図表25】【図表26】。ROEが低水準にとどまる企業を中心に、資本コストを分析・把握した上で、ROEの目標値を設定・公表することが望まれるほか、中長期的に投資家の望むROE水準の達成を目指して収益性を高めることを期待したい。

3章(3)投資について

・ 企業業績が回復し内部留保額が過去最高水準で推移する中【図表27】、多くの投資家は企業が自己資本や手元資金を余剰に抱えているとの考えを強めている【図表29】。投資家は、手元資金が成長に向けた投資に活用されることを最も望んでいることから【図表30】、企業には、投資効率を意識しつつ、競争優位性を築くための戦略的な投資に手元資金を活用していくことを期待したい。

・ また、投資を実施する際の説明については、約半数の投資家は企業側からの説明に不足を感じている【図表33】。投資実行時には、経営計画における位置づけのみならず、投資家が求める投資の採算性やリスクも含めた説明内容の一層の充実を図ることで、投資がいかに企業価値向上に繋がるかを投資家に十分に説明することが望まれる【図表34】。

3章(4)株主還元について

・ 投資家は、経営指標としてROEの次に「総還元性向」「配当性向」といった株主還元指標を重視している【図表18】。企業業績の改善に伴い日本企業の配当総額は増加傾向にある一方、配当性向は概ね30%程度で推移しており【図表41】、多くの投資家は、配当水準が満足できない企業が多数存在すると認識している【図表42】。

・ 個別企業の配当性向にはばらつきが見られ、投資家が中長期的に望ましいと考える水準(30%以上40%未満)を下回る企業は多い【図表43】 【図表44】。投資や内部留保の水準は企業の置かれた環境により異なるため、配当還元の充実は一律に求められるものではないが、特段の資金使途がないまま資金を余剰に抱える企業については、投資家が一つの目安と考える配当性向30%以上の水準をターゲットに配当還元の充実に取り組むことが望まれる。

4章 企業と投資家の「建設的な対話」について

・ 企業・投資家共に、建設的な対話のイメージとして、経営ビジョンや事業戦略・経営体制等、中長期的に企業が目指す方向性およびその実現プロセスについて、対話を通じて意見交換し、議論を深めていきたいと考えている【図表53】【図表54】。

・ 一方、対話の課題として、投資家は「対話内容が経営層に届いていない」と認識しており【図表55】、取締役会で投資家の意見・評価がフィードバックされることを通じて株主の視点が経営に活用されることを望んでいる【図表4】。企業は、経営陣による投資家との定期的な対話や、対話内容を経営層で共有化する体制整備を実施していると認識しているものの【図表57】、投資家の期待は企業が認識する以上に高いことから、企業には、投資家との対話内容を積極的に取締役会の議題として取り上げていくことを要望したい。

・ 対話を充実させる上で、双方が「対話に割けるリソースの不足」を課題と捉えている【図表58】【図表59】。対話に携わる人員は、企業は「2~3人」、投資家は「11人以上」が最も多く【図表60】、対話を専属で行う人員は共に「0人」が最も多い【図表61】。また、対話の平均実施回数は、企業は年182回、投資家は1投資先当たり年1~2回となった【図表62】。対話を一層推進していく上で、要員面の拡充も重要な要素となり得ることから、これらの数値を参考にしつつ、企業規模や運用スタイルに応じて必要となる対話要員の拡充が図られることを期待したい。

・ また、双方がリソース不足を課題と捉える中、限られた時間で効率的に対話を行うために、ディスクローズの充実が図られる意義も大きい。対話に際し企業が特に注意すべき点として、十分な情報開示を挙げる投資家は多いことから【図表55】、対話の前提となるディスクローズの充実に引き続き取り組んでもらいたい。


【調査概要】
実施期間:平成27年10月6日~11月6日
企業向け:<送付>上場企業 1,056社 <回答>568社 (回答率 53.8%)
投資家向け:<送付>機関投資家 152社 <回答>84社(回答率 55.3%)

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