2018年 セルロースナノファイバー(CNF)市場調査 

2018年07月26日

矢野経済研究所は、2018年のセルロースナノファイバー(CNF)市場を調査し、市場動向、参入企業動向、将来展望を明らかにした。

〈セルロースナノファイバーとは〉
セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber、以下CNF)は、パルプあるいは木材チップに含まれるセルロース繊維をナノサイズまで解繊したもの。植物に含まれるセルロース繊維からCNFを取り出す手法としては、①触媒や酸などでセルロース分子鎖の水素結合を緩めてからミキサーなどにかける化学的解繊法、②原料をホモジナイザーなどの機械に投入、機械の力で微細化する機械的解繊法、③セルロースを分散させた液体(懸濁液)を高速で衝突させ、水の運動エネルギーと衝突の衝撃で解繊する水衝突解繊法の3つに大別され、CNFも3つのタイプに分けられる。

<市場に含まれる商品・サービス>
セルロースナノファイバー(CNF)、セルロースナノファイバーを添加剤、強化材などに使用した各種製品

1.市場概況

 セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber、以下CNF)は、植物細胞の根幹を構成するセルロース繊維をナノレベルに解繊(かいせん)したもので、「鉄の1/5の軽さ、鉄の5倍の強度」、「比表面積が大きい」、「熱変形が少なく寸法安定性に優れる」、「植物由来」、「ガスバリア性」といった優れた特性を有する材料である。2015年から2017年初頭にかけてCNFの量産は始まっておらず、CNFメーカー各社とも小規模なラボかパイロットプラントで生産し、限られたユーザー(需要家)にサンプル供給するという展開であった。生産量も限定的であり、自動車やエレクトロニクス、化学、医薬・化粧品など、一定以上のボリュームでの安定供給が求められる一般産業分野ではなく日用品等での採用がほとんどであり、本格的な実用化に向けた準備段階という位置づけであったと言える。

 しかし、2017年に入ると、製紙メーカーや化学メーカー各社がTEMPO酸化法やACC法、京都プロセスといった各種生産プロセスによる商業生産を目的とした量産プラントを相次いで立上げたことで、2017年年末時点でのCNFの量産プラントの生産能力は700t/年(固形分換算)に達した。このほか、固形分換算で数十t~100t/年程度の生産能力のパイロットプラントを保有しているメーカーも数多くあり、2017年以降に幅広いユーザーに向けたサンプルワークが進展している。中にはパイロットプラントで生産したグレードのCNFがユーザー商品の材料として採用された事例もある。CNFメーカー各社でまとまったボリュームでの生産体制が出そろったことでCNFの供給体制にも余裕ができたことから、これまで数量、ユーザーともに限定的な展開となりがちであった用途開発も制限なく出来るようになり、幅広い分野でCNFの採用及び採用に向けた具体的な検討が加速度的に拡大した。

 そうした状況により、2017年の国内セルロースナノファイバー(CNF)市場は、メーカー出荷ベースで出荷数量が20t、出荷金額が4億円になった。また、2018年の同市場は出荷数量が50t~60t、出荷金額が5~6億円になる見込みである。

2.注目トピック

CNFの主要用途別動向
 現段階では市販されている製品へのCNF採用例はまだ限定的であるが、ユーザー各社とも実際の商品への搭載を前提として、CNFを使用した部品や材料の試作・テストが進められている。
 特に今後の採用拡大が期待される自動車向けでは、2017年から2018年にかけて開催された国内外の展示会でのCNF複合樹脂を使用したドアトリムやインテークマニホールド、トランクパネル、ボンネットなどが相次いで発表された。但し、いずれも試作段階であり、樹脂とCNFとの相性や複合のしやすさ、複合樹脂の性能や成形性、コストなど、今後の改良課題も多いが、CNFメーカー各社では樹脂複合化のためのパウダーグレードや京都プロセスによるCNF複合化マスターバッチ(MB)などの開発が進展している。2018年に入り、一部では商業生産も始まっている。
​ また、自動車以外では、市販されている製品へのCNF採用例として総合スポーツ用品メーカーの高機能ランニングシューズのミッドソール部材にCNFを配合した特種ポリマーの発泡体が採用された例がある。その他、増粘剤や分散剤などの機能性添加剤用途では、化粧品原料としてのCNFの性能が世界に認められ、国内外の化粧品メーカーに向けたサンプルワークが進んでいる。

3.将来展望

 国内におけるCNF生産能力拡大と歩調を合わせて、自動車、建材やエレクトロニクス、機能性添加剤など幅広い用途でCNFの採用に向けた具体的な検討が拡大し、大手メーカーのスポーツシューズなど市販品への採用が始まった例はあるが、現状では開発品の多くが依然として試作・サンプルワークの段階にある。
 数あるCNFの想定用途の中でも特に需要拡大への期待値が高い自動車関連では、CNFの活用により2020年の自動車重量を現状より10%軽量化を目指す産官学連携のNCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクトが環境省の主導により発足した。2018年6月にはエンジンカバーやトランクリッドにCNFを採用した第一世代のモデルカーが披露されたものの、実車搭載を実現するには耐衝撃性や寸法・形状の安定性など安全性に係る性能や成形性、生産性などでさらなる改良開発が必要である。
 CNFは幅広い用途で採用に向けた検討が進展しており、2030年には多くの用途で製品出荷が始まることで、2030年の国内セルロースナノファイバー(CNF)市場はメーカー出荷ベースで、出荷数量が5万t、出荷金額が600億円にまで拡大すると予測する。

調査概要


調査期間: 2018年4月~6月
調査対象: セルロースナノファイバーメーカー(製紙メーカー、化学メーカー等)
調査方法: 当社専門研究員による直接面接取材をベースに、文献調査併用

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[矢野経済研究所]
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