不動産の新しい動向 アジア太平洋2016年 

2015年12月07日
アーバンランド・インスティテュート(ULI)とPwCは、不動産動向調査報告書である「Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 2016(不動産の新しい動向 アジア太平洋2016年)」を共同発表しました。

本調査の結果、豊富な資金がコア市場に流入し、また最も先進的で流動性の高い市場への動きを反映し、東京が不動産投資と開発投資の見通しランキングで昨年に続き首位に選ばれました。今回の調査では総じてオーストラリアと日本の評価が高く、東京、シドニー、メルボルン、大阪がアジア太平洋地域の最も有望な市場として上位4位を占めており、続いてホーチミンシティが5位にランクされています。

投資見通しと開発見通しのいずれも一位となった東京はアジアでナンバーワンの一番手市場であり、投資家のチェック項目をすべて満たし、市場の厚みと流動性で他を凌駕しています。さらに、量的緩和政策の継続により不動産価格の上昇とキャップレートの圧縮が大幅に進んでおり、優れたキャッシュ・オン・キャッシュ・リターンを生み出しています。ただし、金融緩和と低金利に支えられ取引が活発に行われているものの、市場の減速を懸念する声も聞かれます。短期的な見通しは良好とはいえ、価格の停滞や下落を伴う減速は、高LTVの借入金のリファイナンスが必要な投資家にとって問題になりかねないと報告書は指摘しています。

本報告書は投資家、デベロッパー、不動産会社のトップ、金融機関、仲介業者、コンサルタントなど、343名の国際的に著名な不動産専門家の見解に基づいて作成されたもので、アジア太平洋地域における不動産投資と開発のトレンド、不動産金融・資本市場の状況、および不動産部門別・都市別の動向に関する見通しを示しており、本日東京で開催されたULIジャパンEmerging Trends昼食会で発表されました。

今回の調査で東京に続く投資・開発見通しの上位4都市について、本報告書は以下のようにまとめています。

・シドニー(投資見通し・開発見通しとも2位)‐シドニーはコアのオフィスビルを投資対象とする機関投資家を惹きつけています。そうした資産が不足する一方、新たな投資家が取得を目指して殺到いるため、豪ドルの下落とも相まって、キャップレートが大幅に低下しました。シドニーの不動産は、オーストラリア経済がコモディティ主導からサービス部門主導モデルへと移行しつつあることからも恩恵を受けています。さらに、オフィスから住宅への転用や再開発プロジェクトも多数行われ投資家の関心を呼んでおり、シドニーの不動産業界の見通しを非常に明るいものにしています。

・メルボルン(投資見通し・開発見通しとも3位)‐メルボルンの投資環境はシドニーと同様と受け止められていますが、メルボルンの不動産価格は2015年に二桁の大幅な上昇を見せたとはいえ、依然としてシドニーを下回っています。これは中心業務地区(CBD)拡大の受け皿となる土地がシドニーより多いことが主な理由です。新規設立企業や郊外から都心部に移転する企業からのアブソープション(吸収需要)も引き続き堅調です。

・大阪(投資見通し4位、開発見通し5位)‐競争が激烈ではない、より小規模な都市へと投資家が目を転じる中、大阪は引き続き東京から溢れ出た需要の恩恵を受けています。取引利回りは住宅部門で特に高くなっていますが、事業用不動産も堅調なパフォーマンスを見せています。大阪の目覚ましい成長は「何年も悩みの種だった長期にわたる供給過剰の終了を告げる」ものと言えます。

・ホーチミンシティ(投資見通し5位、開発見通し4位)‐ホーチミンシティの順位は過去2年間で急上昇し、2014年の19位から今回は上位5位に食い込みました。これは政府が通貨の安定化とインフレ抑制に努めて成功を収めたことに対する評価に加え、銀行が不動産向け融資を再開したことによるものです。また、外国人投資家による市場アクセスが改善され外国の資金を引き寄せており、それによって住宅と事業用資産の取得が大幅に拡大するものと見込まれます。

不動産タイプ別では、来年の投資見通しにおいて引き続き産業施設/物流施設部門がアジア太平洋地域全域にわたり最も高い評価を獲得しました。本報告書は「アジアのほぼすべての市場で近代的な物流施設が不足しているため、需要が引き続き拡大することは確実で、特に中国についてそう言える」としています。この需要を牽引する要因として、e コマースがブームとなっており迅速な配達が求められることやコールドフードのチェーン構築が進んでいること、およびアジアの製造業が構造変革を進めベトナムなど新興市場に拠点を移していることが挙げられています。

このほか、本報告書はアジア太平洋地域の全体的な傾向を以下のようにまとめています。

・2015年上半期の土地取引の減少は中国での売買の減速が主因
ただし下半期については、中国本土に対して慎重な姿勢を保つ外国人投資家もいるものの、取引は全域にわたって大幅に持ち直し、過去最高水準となった昨年に並ぶか、あるいは超えると予想されています。

・キャップレートもほとんどの市場で過去最低を記録しているが、2016年も取得の勢いは弱まりそうにない
その結果、一部の投資家は現在の不動産価格が最高水準に達したと見ているとはいえ、拡大する投資資金が引き続き価格を押し上げ、キャップレートを押し下げる(ただしそのペースは減速する)と考える投資家が大半であり、一方、世界金融危機後に取得した資産からエグジットを行って利益の確保を図ろうとする投資家が増えています。

・現在、アジアの利回り水準は米国や欧州の取引利回りに比べ競争力に劣ると見られがちのため、一部の投資家はリスクテーキングを強める動きを続けており、より高リターンの資産クラスや地域に投資している
とはいえ、このトレンドは昨年以来減速している模様です。景気サイクルのピークに達したと見ている投資家が、安心できる一番手市場のコア資産に関心を転じていると思われるためです。

・オーストラリアや日本などの市場ではまだキャップレートの圧縮余地があるものの、今後の利益源として(キャップレートの圧縮ではなく)賃料収入の拡大を考えている投資家が多い
ただしこの見方には賛否両論あり、両国とも景気サイクルの点では賃料収入の拡大が考えられる段階にあるものの、そうした期待は自分の理屈を正当化しているだけだとする投資家もいます。

・現在の環境ではオポチュニスティックなリターンは獲得しにくいが、多くのファンドがオポチュニスティック投資を行っており、しかも利益をあげている模様
現在、オポチュニスティック投資で最も良好なリターンが得られる市場は日本(借入コストが低くレバレッジが高いため金融工学的な手法により格段に大きな利益が可能)と中国(デベロッパーがキャッシュに飢え、流動性が供給不足で、経済の減速により他の資金源が中国を敬遠)です。一方ディストレス投資の機会は、おそらく中国とインドを除けば、依然として見えていません。

・フィリピンやベトナム、インドネシア等の新興市場は、他を凌ぐ利回りと成長率により絶えず魅力をふりまいている
しかしながら、米国がまもなくベースレートの引き上げに向かう中、為替レートとキャピタルフローのボラティリティが拡大しリスク水準が高まるという現在の環境にあって、多くの投資家がこれらの市場を避けているのが実情です。

・さらに多くの機関投資家がアジア市場に殺到している
機関投資家が巨額の資金の投入先を探しており、その結果M&Aやポートフォリオ取引が拡大しています。

・多くのリスクが存在している
その中でも、金利の引き上げ幅が予想を上回ることと、長らく言われてきたように中国がハードランディングし、それがアジア全域に連鎖反応を引き起こすということが、今後考えられるシナリオとして最も多く聞かれました。

詳しいリサーチ内容はネタ元へ
[PwC]
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