コミュニケーションとマーケティングサービスを行うインターパブリックグループのメディア調査及び戦略プランニングを行うマグナグローバルは 2018 年 6 月 18 日、広告市場予測の最新レポートを発表しました。
マグナグローバルはメディアグループ IPG Mediabrands(IPG メディアブランズ)傘下の戦略グローバルメディア会社で、毎年、世界の広告市場トレンドを網羅する調査レポートを発表しています。

主要調査結果


  • 最新レポートによれば、2018 年の全世界の媒体社のネット広告収入(Net Advertising Revenues、以下 NAR)予想は対前年比対前年比 6.4%増の 5,510 億ドルで、2010 年以降最も成長率が高い年となると予想している。
  • 2017 年の成長率(対前年比対前年比 4.5%増)を上回る成長の要因としては 2018 年に行われる周期的大型イベント(米国の中間選挙、FIFA ワールドカップ、冬季オリンピック)に起因すると想定されている。これらのイベントによる広告収入 50 億ドルを除いた 2018 年の成長率は対前年比対前年比 5.5%増で、2017 年と比較して順当な成長率である。
  • 世界的な広告需要は引き続き高く、堅調な経済成長を続ける国々(米国対前年比 6.4%増、中国同 10%増、ロシア同 12%増、インド同 12.5%増)、および景気回復期にある国々(ラテンアメリカ対前年比 10%、中東同 9%)で特に需要が高まる。その一方、西ヨーロッパでは経済成長率の低さと政治の不透明さにより広告需要は低迷しているが、デジタル広告の成長がトラディショナル・メディアの下落分を相殺し、全体として中程度の成長(対前年比 4.1%増)となっている。
  • デジタルとモバイル広告の売り上げは 2018 年に対前年比 15.6%増の成長が見込まれており、金額にして 2,500 億ドルもしくは世界の広告収入の 45%に達すると想定される。デジタル広告の売り上げは 2019 年、20 年と二桁成長を続け 2020 年までには世界の広告売上の半分を占めるようになると想定している。
  • アジア太平洋地域(APAC)では広告売上は対前年比 6.9%増の成長により 1,650 億ドルに到達することが想定されており、当初想定されていた対前年比.9%増の成長率を上回っている。APAC は広告予算の規模において北米の 2,180 億ドルに次ぐ第 2 位を維持している。2017 年の対前年比 5.7%増という実績に比べて、加速度的に成長をしている市場である。

主要調査結果—トップストーリー

  • 1. 世界で見ると、媒体社の NAR は 2018 年に対前年比対前年比 6.4%の成長が見込まれされ、5,510 億ドルに到達するとみられる。これはマグナの前回の 2017 年 12 月発表の対前年比 5.2%を大きく上回るものであり、特に今年に入ってから予測上回るデジタルの売り上げがこの上昇を牽引している。
  • 2. 2018 年に行われる大型の周期的イベント(FIFA ワールドカップ ロシア大会、米国中間選挙、冬季オリンピック平昌大会)は、世界規模での広告成長に 1%寄与する。これらを除けば、2018 年の根本的な広告成長は対前年比5.5%となり、2017 年の数字と近くなる。
  • 3. 本年最速の成長を見せている地域は中央&東ヨーロッパ(対前年比 9.2%)、ラテン・アメリカ(同 9.6%)、続いてAPAC(同 6.9%)と北米(同 6.3%)となっている。西ヨーロッパの成長は控えめとなっており(同 4.1%)、経済不調や政治的な不安定さが複数の国(特にイギリス、スペイン、イタリア)に広がり、2018-2019 年のビジネスに対する自信という意味でもネガティブな影響を与える可能性が懸念される。中東とアフリカはインフレと石油をベースにした経済の復興により、再び成長の速度を上げている(対前年比 9.1%)。
  • 4. MAGNA が分析した70市場のうち69市場は、ある程度の成長を期待している(シンガポールのみ本年度市場の縮小を予測)。上位20市場のうち、最も高い成長率が期待されているのがインド(対前年比12%)、ロシア(同12%)、中国(同10%)となっている。
  • 5. リアルタイム放送 TV の広告の売上は2018年に再び上昇(3%増で1850億ドル)、偶数年に行われる周期的なイベントの復帰により、世界中でテレビのリーチと視聴率が減少しているなか、広告出稿額が50億ドル近く増加(北米が単独で 2/3 を計上)。偶数年の広告売上の増加分を除外すると本年度のテレビの成長は横ばい(対前年比 0.4%)と想定される
  • 6. 一般消費財/日用消費財セクタ(食品、飲料、パーソナルケア、家庭用製品)の大手の消費者ブランド、メディア/エンターテイメント、外食チェーン、及び製薬会社(放送が許されている場合)からの需要に支えられ、既存のリアムタイム放送は今後も健在。デジタルビデオフォーマットを検証した一部のマーケターはブランドセーフティーや投資費用対効果の信用性の欠如に落胆し、多くのブランドはメディアミックスの長期の多様化を一時停止し、既存の TVを信用しました。これにより需要が継続し、供給(視聴率)の低迷と合わさり高い CPM コストのインフレを招いた(経済的インフレが 2%以下のところ、主要マーケットでは対前年比 5% から 15%)。高い価格設定はボリュームの下落の相殺にはほとんど繋がらず、フランス、イギリス、イタリア、日本及び北米(循環的広告出稿額を除く)にある放送局の売上の横ばいを招いている。
  • 7. “アドバンスドテレビ” の広告技術は北米、イギリス、オーストラリアなど数か所の市場で勢いを増しています。この技術には生放送でのターゲットに向けた広告差し替え(世帯アドレッサブルキャンペーン)、テレビ本体向けオンデマンドTV コンテンツ送信、また以前のように年代/性別による評価に比べ無駄の少ない的確な視聴者向けの在庫を買える手法(車の購入を検討している人、赤ちゃん、若しくはペットがいる家庭など)の普及など。昨今、最も“進化した”テレビキャンペーンはセット・トップ・ボックスによるケーブルや衛星放送の定期購入の管理に基づいていますが、“スマート”コネクタブル TV やオーバー・ザ・トップ(OTT)デバイスの高い普及率によって“コード・カッター”や“安全な”テレビコンテンツを放映する大型スクリーンやオンデマンド、一般放送の視聴者を含む全てのテレビ視聴者消費に向けターゲット化する機会が増えました。サムスン、Roku その他企業は競ってテレビのオペレーティングシステムを提供し、マーケターに向け、“アドバンスド”ターゲテッド広告ソリューションを提供している。
  • 8. デジタル広告売上(ディスプレイ、動画、サーチ、ソーシャルメディア)について、今年は対前年比 15%の成長、2,500億ドルに到達すると見られており、2017 年の対前年比 17%に比べて若干鈍化しています。同時にオフライン広告売上(地上波テレビ、プリント、ラジオ放送、OOH)は-0.2%、3,000 億ドルに減少すると見られている。2018 年末までにデジタルメディアの売上は全広告売上の 46%を占め、2020 年までには全広告売上の 50%に到達することをMAGNA は予測しています。アメリカでは既に今年この大きな節目に到達する予定であり、中国やイギリスのような市場ではデジタルメディア売上のマーケットシェアは既に 60%以上を占めている。
  • 9. デジタルメディアの出稿額が到達した規模及び 2018 年前半に一部の媒体者で起こった問題にもかかわらず、広告出稿額は今のところ鈍化の兆しは示していない。Facebook 及び Google の合わせた広告収入は 2018 年第一四半期、前年同期比で対前年比 31%の伸びを見せており、2017 年(対前年比 27%)より更に加速している。多くの一般消費者向け大手ブランドはテレビからデジタルメディアへの長期的予算再配分を鈍化若しくは一時的に停止している動きがあり、MAGNAは今年の後半緩やかに成長が停滞すると予測しているが、今のところ、小規模な、ローカル、及びダイレクトマーケティングの広告主の出稿額が、時には BTL マーケティングチャネル(ダイレクトメール、イエローページ)からの再配分により、急速な伸びを示しており、大手広告主からの停滞を相殺している。
  • 10. デジタル広告売上の大多数(62%)は現在モバイルデバイス(ほとんどスマートフォン)のインプレッション及びクリックから生まれている。2018 年ではモバイル広告の売上は対前年比 30%成長し、同時にアドブロック及びPCからスマートフォンへのデジタルメディア消費の急速な移行に伴い、デスクトップをもとにした広告収入は縮小(-2%)する予測である。ソーシャルメディア、動画、及びソーシャルのフォーマットは引き続きデジタル広告の成長を牽引している。

アジア太平洋地域(APAC)の概要

2018 年度、APAC の広告市場は当初想定された対前年比 5.9% 成長を上回り、同 6.9%の成長を遂げ、売上げも1,650 億ドルを達成する見込みである。北米の 2,180 億ドルに次いで、APAC は広告出稿額が第 2 位の地域となっている。2017 年度の 5.7%成長と比較すると成長率が促進している事が理解できる。

デジタルは引き続きアジア太平洋地域における広告出稿額の成長の原動力となり、昨年の 18%成長に続き今年は約 17%の成長、及び 700 億ドルの売り上げが見込まれている。デジタル形式の広告は本年度テレビの 36%シェアを抜き、総広告予算の 42.5% を占める。MAGNA は 2022 年にはデジタル広告の規模が 1,100 億ドルにまで拡大し、APAC の総広告予算の過半数を計上すると予測している。モバイルも引き続きデジタルの成長要因となっており、出稿額も本年度は 29%の伸び、総デジタル広告出稿額の三分の二を占めるまでとなっています。現在アジア太平洋地域はモバイル広告領域で北米を抜き、最先端の地域となっている。

デジタルメディアのフォーマットの中でもサーチは他を凌駕し、総予算の半分強が割り当てられている。 引き続き多くのブランドがサーチ広告のパフォーマンス利益に魅力を感じている中、本年度のサーチ広告出稿額は対前年比 15%成長すると見られている。更に、従来のサーチエンジンに比べ、アリババ・プロダクト・リスティング広告など、非主力サーチも成長シェアを伸ばしている。サーチに比べ割合が少ないものの、動画及びソーシャルメディアは急成長しているフォーマットであり、本年度それぞれ対前年比 32%、30%の増加が予測されている。これらを合わせると総収入の 30%以上となる。同時にアド・ブロッキングの起因により、静止画バナーの推移は横ばいが続き在庫も減少、価格設定も控えめである。

テレビは引き続き APAC における第 2 位の広告媒体に位置し、同地域における本年度のテレビ広告の売り上げは2.4%増と予測されている。この成長率は昨年度の 1.3%を上回り、景気の向上と同時に視聴者離れを相殺する CMPインフレーションを反映していると考えられる。2018 年 FIFA ワールドカップ・ロシア大会も、日本、韓国、オーストラリアのナショナルチームが予選を通過したことにより限定的ながらテレビの後押しになっている。今でもテレビは広告主の合計予算の 36%近くをカバーしているが、近年テレビがデジタルのパフォーマンスの後塵を拝し続けている事実を鑑みると 2022年にはアジア太平洋地域におけるテレビの総出稿額は 30%になると予想される。他の既存メディアのシェアが縮小している中、テレビの複合成長は 2022 年まで上向きの予想である。

プリント広告の売り上げは著しく下落し、2018 年では新聞の出稿額が 7.5%減少、更に雑誌においては-12%急落している。成長率は著しくマイナスではあるものの、実際には成長は 2017 年よりも伸びている。この現象の原因として、印刷媒体全体においても総予算に対する割合が 10%にも満たない状況の影響が推測される。印刷媒体に対する出稿額が減少している中、広告展開を主に印刷媒体で行っているブランドがある程度、新聞および雑誌を継続的急落から守っている状態である。

アジア太平洋地域内のオフライン広告は全体として 950 億ドルの売上を計上しているが、前年の同期間との比較では売上は横ばいで、同地域の成長はデジタルフォーマットも広告で成り立っている。

Japan: 対前年比 2.8%

媒体社側の純広告収入 (NAR)は 2018 年度では 2.8%の成長率が見込まれており、デジタル広告の二桁成長が既存広告の売上の下落を補っている。更に 2019 年-2020 年を見据えると、日本の媒体市場が向かい風(2019 年 10 月の増税)と追い風(2020 年東京夏季オリンピック)を迎える。

媒体社側の純広告収入は 2017 年度で推定 2.7%の成長を遂げ 4 兆 2,000 億円 (378 億ドル)を達成した。既存メディアが 2%下落する中、デジタル広告の売上はソーシャルメディア、動画及びサーチの後押しもあり 16%成長し、1 兆2,000 億円となる。テレビ、 ラジオ及び屋外広告の売上は基本的に横ばいだったが、プリント広告の売上は 6%減少。
他の先進国と比べ日本の印刷物の発行部数と売上は長年根強く展開しているが、読者数の減少と CPM コスト安の進行が 3 年連続してプリント広告の売上に影響を及ぼしている。ヴァーティカル・セクターを見ると広告出稿額は食品、小売業、パーソナルケアで減少する中、自動車及びメディア/通信は増額した。

日本経済は、未だ本質的には停滞が続いている。2018 年 4 月、国際通貨基金(IMF)は日本の 2018 年 1 月~12月における実質 GDP 成長率を対前年比 0.7%から 1.2%に上方修正したが、2017 年の対前年比 1.7%からは低迷を示している。2019-2020 年に関しても IMF は低迷が続くと見込まれる。消費者物価上昇率は低い水準に留まっており、直近の見通しでは、対前年比 1.1%、同 0.5%とわずかな上昇を示している。既に何度か延期されている消費税増税(8%から 10%)は現在安部政権では 2019 年の 10 月を予定している。数年前と同様、増税は少なくも数四半期(2019 年第四四半期、2020 年第一四半期)は経済を停滞させると予測している。しかし、2020 年の東京オリンピックは恐らくメディア・広告業界にとっては景気づけになり、マクロ経済の影響への緩和剤になると見られている。

上記を踏まえると、MAGNA は今年の総広告売上が対前年比 2.8%増加すると見込んでおり、2019 年は対前年比2.0%、2020 年は対前年比 3.5%と予測している。

2018 年において、デジタル広告の売上はソーシャルメディア(対前年比 27%)及び動画(同 26%)の拡大に伴い、15%の成長率が見込まれるが、従来メディアの広告売上は昨年に続き対前年比 2%の減少が予測される。OOH は横ばい、テレビ広告の売上は対前年比 1%の減少、ラジオスポットの売上も対前年比 2.5%の減少が予測される。テレビとラジオは、視聴率とリーチの低下、及び価格力の弱さに打撃を受けている(テレビの CPM は横ばい、ラジオは対前年比 2%と予測されている)。一方で、テレビは 2018 年 2 月近隣の韓国で開催された冬季オリンピックで高い視聴率を誇り、またオリンピックほどのレペルではないが、6 月と 7 月に開催される FIFA ワールドカップでも高い視聴率が見込まれている。両イベントの放映権は電通が所有しており、NHK 及び民間放送局にサブライセンスを与えている。

マグナグローバル広告市場予測について

マグナグローバル広告市場予測は、これまで 60 年以上にわたり世界の広告市場の動きを分析、予測してきました。世界各地の媒体社の公開情報、政府による調査報告書、事業者やローカルメディアのエキスパートによるデータを解析し、広告市場を予測し、年に2回更新しています。次回の更新は2018年12月に予定しています。

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