2015年版「ジェトロ世界貿易投資報告」 

2015年08月07日
ジェトロは、2015年版のジェトロ世界貿易投資報告をまとめましたので、総論編概要を以下のとおり発表します。

-10のポイント-

1.世界貿易は小幅な伸び率にとどまる

2.日本の貿易赤字は14年半ば以降縮小傾向、海外進出に伴う収益は一段と増加

3.日本の対外直接投資は高水準を維持、アジアでは対ASEANが堅調

4.対日直接投資は3年連続で増加、高まるアジアの存在感

5.世界のFTA発効件数は271件に、TPPを基軸にメガFTAの一段の進展

6.2015年末に深化するASEAN経済共同体(AEC)

7.海外展開で高まるサービス分野の重要性

8.魅力増すクリティカルマス市場とアライアンスを通じた進出

9.対日投資、農水産輸出、観光を通じた地域経済の活性化

10.ダイバーシティを通じた経営のグローバル化


-概要-

1.世界貿易は小幅な伸び率にとどまる
・2014年の世界貿易(商品貿易)は、世界経済成長率が3.4%にとどまったことや、資源価格下落などの影響を受け、前年比0.8%増の18兆7,461億ドル(ジェトロ推計)と、小幅な伸びにとどまった。近年の財別貿易動向では、中間財や資本財の輸出の伸びが消費財と比べて鈍いという特徴がある。中国の輸入伸び率は2014年は0.7%増に鈍化した一方、米国は景気回復を受け、2014年には3.5%増に回復。商品別では、シリコンサイクルの回復を受け、通信機器や半導体製造機器などの貿易が堅調。
・2014年の世界の直接投資は、先進国向けの直接投資の減少を主因に、前年比16.3%減の1兆2,283億ドル(UNCTAD)であった。
・世界経済は、先進国、新興・途上国ともに、総じて成長ペースは緩やかに留まる。リスク要因には年内にも見込まれる米国の利上げの影響やギリシャの債務問題、中国経済の成長鈍化などがある。

2.日本の貿易赤字は14年半ば以降縮小傾向、海外進出に伴う収益は一段と増加
・2014年の日本の貿易は、輸出数量伸び率が0.6%増とわずかながらも4年ぶりに増加に転じた。一般機械(前年比2.9%増)などが牽引した。貿易収支は4年連続の赤字(△1,228億ドル)となったが、2014年半ば以降、足元では赤字幅は縮小傾向にある。輸出物価指数(契約通貨ベース)と為替の変化をみると、輸送機器や一般機械などでは為替変動に比べて輸出物価の動きは小さく、円安下において採算性を重視する企業姿勢が表れている。
・直接投資収益と知的財産権等使用料の受取を日本企業の海外進出に伴う収益とすると、近年は増加傾向にある。輸出総額に対する比率も2割近くに達した。

3.日本の対外直接投資は高水準を維持、アジアでは対ASEANが堅調
・2014年の日本の対外直接投資は前年比18.6%減の1,197億ドルであった。過去最高の13年(1,472億ドル)には及ばなかったものの、対外直接投資は4年続けて1,000億ドルを上回り、日本企業は引き続き成長する海外市場開拓を積極的に進めている。アジアでは、ASEAN(204億ドル)と中国向け(67億ドル)の投資額の差が3倍に拡大した。2013年以降、多くの業種でASEAN向けが中国向けを上回る傾向が定着している。
・日本企業の海外売上高比率は2010年度以降上昇、特に米国経済の回復を受け、米州における売上比率が、2012年度の18.6%から2014年度には23.3%へ上昇している。
・円安の進行等を受け、一部の日本企業には国内生産強化の動きがみられる。主な家電製品の国内生産比率の推移をみると、14年9月以降、エアコンの比率に上昇の兆しが出ている。

4.対日直接投資は3年連続で増加、高まるアジアの存在感
・2014年の対日直接投資は前年比22.5%増の91億ドルと3年連続で増加した。香港、シンガポール、台湾を中心とするアジアからの対日直接投資が増加し、アジアの存在感が増している。2014年末の対日直接投資残高は23兆3,439億円となり、初めて20兆円を超えた。対日直接投資残高におけるアジアのシェアは2013年末の14.4%から2014年末は15.5%に上昇した。
・次世代メモリの生産増強、航空機エンジン向け高機能繊維の製造拠点などの生産拠点や、大手企業によるR&D拠点の設立など、日本の高い技術を活かした案件も多い。

5.世界のFTA発効件数は271件に、TPPを基軸にメガFTAの一段の進展
・世界のFTAは2014年以降新たに17件が発効し、271件となった(2015年7月時点)。2003年以降12年連続で新規FTA発効件数は2桁を超える。
・米国の貿易促進権限(TPA)法案がオバマ大統領の署名をもって2015年6月29日に成立した。日米を含むアジア太平洋12カ国による環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉を後押しすることが期待される。TPPが締結されれば高度かつ包括的な自由化や貿易ルールがアジア太平洋地域に敷かれることになる。また、TPPの合意は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やEU・米国間の包括的貿易投資協定(TTIP)など他のメガFTA交渉に弾みをつけると考えられる。
・日本のFTAカバー率(日本の貿易額に占めるFTA発効相手国との貿易額の比率)は22.3%(2014年実績)となり、初めて20%を超えた。TPPやRCEP、日EU・EPAなど交渉中のメガFTA参加国との貿易額を足し合わせると、FTAカバー率は73.3%になり、韓国、米国、EUのカバー率を上回る。

6.2015年末に深化するASEAN経済共同体(AEC)
・2015年末に完成を目指すASEAN経済共同体では、関税撤廃がほぼ実現している。CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)は2015年から89~93%の品目で関税を撤廃し、一部例外を除く、残りの品目も2018年に撤廃する。関税以外の分野では、2014年に「原産地証明書へのFOB価格不記載化」が一定条件のもと実現、今後、自己証明制度の導入、ASEANシングルウインドウ、規格基準の相互認証などの非関税分野、サービス、投資分野等で自由化・円滑化が期待される。
・アジア大洋州では2014年以降、新たに3件のFTAが発効した。
・日本の既存のFTA利用額・利用率は、年々上昇している。

7.海外展開で高まるサービス分野の重要性
・製造業の貿易には、無形のサービスが生み出す付加価値が多くかかわっている。特に、卸売・小売・輸送関連サービスの付加価値比率は、日本では18.3%、世界主要国でも約17%に上り、商品輸出に欠かせない要素となっている。
・一方、新興国、特にアジアではサービス業に幅広い外資規制が残る。今後も日本企業が海外展開を加速させる中で、サービス分野の自由化が求められる。
・サービスに関するルールとして、先進国を中心とした新サービス貿易協定(TiSA)や、域内投資家に対し最大70%まで出資を容認するASEANサービス枠組み協定(AFAS)の交渉も進む。APECも、「製造業関連サービス」の自由化に取り組んでいる。今後こうした国際枠組みによるサービス業の規制撤廃・緩和を活用することが、ビジネス上重要な選択肢となる。

8.魅力増すクリティカルマス市場とアライアンスを通じた進出
・新興・途上国では、所得向上に伴い消費が拡大する見込みである。中国やASEAN以外の地域では、市場規模も大きく成長率も高いにもかかわらず、欧米企業などと比較して日本企業の参入が十分に進んでいない国もある。こうした「クリテイカルマス市場」(①中国とASEAN以外の中所得国のうち、②名目GDPが1,000億ドル以上の国を、③人口の大きい順に選定した10カ国)の開拓が重要性を増している。
・巨大かつ複雑なクリティカルマス市場への単独での進出、特に消費市場向けの製品の販売やサービス業などにおける進出には、市場開拓や顧客獲得など数多くの課題もある。そこで、知識・経験豊富な地場企業や現地の第三国企業との提携は進出の形態の選択肢の一つとなりえる。インド、ブラジル、トルコなどの有望市場への進出に際し、合弁会社の設立や買収、業務提携などの形をとる日本企業が見られる。
・巨大な米国市場の中でヒスパニック系人口の増加が顕著で、2060年には全人口の約3割に達する見通しである。米国のクリテイカルマス市場と位置付けられる。

9.対日投資、農水産輸出、観光を通じた地域経済の活性化
・国内の外資系企業(外国資本比率33.4%以上)による常時従業者数は61万人。対日グリーンフィールド投資では、北海道は観光関連、九州・沖縄は再生可能エネルギー、東北、中部、関西は電子部品の投資額が大きい。外国企業の地方進出は、雇用創出、訪日外国人旅行者増、輸出拡大、新技術・サービス導入などの面で地域経済にプラスの効果がある。
・2014年の日本の農林水産物・食品輸出額は、香港、台湾、中国、韓国等、アジアの国・地域向けの輸出額が牽引し、前年比11.1%増の6,117億円と過去最高を記録した。2015年6月に、「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」(地理的表示法)が施行され、地域ブランドの形成を促進することが期待される。ジェトロでは、具体的な輸出案件を発掘する「1県1支援プログラム」を立ち上げている。
・訪日外国人数は、円安などの効果もあり、2014年に前年比29.4%増の1,341万人(日本政府観光局)と過去最高を記録した(旅行サービス収支は2013年の68億ドルの赤字から2014年には5億ドルの赤字に大幅に縮小)。地方では、地域のクールジャパン資源を活用した産業観光が広がりをみせつつある。今後、距離的にも近いアジアからの一段の観光客増加が期待される。

10.ダイバーシティを通じた経営のグローバル化
・日本企業の輸出ビジネス・海外進出上の課題として、海外ビジネスを担う人材の不足が上位に挙げられる。
・日本企業の外国人材の採用状況では、外国人を採用している企業(回答企業総数の42.2%)と今後採用を検討したい企業(同20.8%)を合わせると63%に及ぶ。同企業のうち、日本国内の外国人留学生を採用している・採用する方針の企業が最も多く、外国人留学生へのニーズが高い。
・一方、外国人留学生の日本での就職意欲は2013年度に65.0%(日本学生支援機構「私費外国人留学生生活実態調査」)である一方、外国人留学生の日本における就職率は2013年度に23.7%(同機構「外国人留学生進路状況調査結果」)であり、ミスマッチを改善する余地がある。

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[ジェトロ]
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