不動産投資に関する調査 2016年(年金基金、機関投資家等対象) 

2016年12月12日
三井住友トラスト基礎研究所は、2016年10月~11月にかけて、不動産投資市場調査の一環として「不動産投資に関する調査」を実施した。

<調査対象と方法>
アンケート送付先:601(年金基金:419、機関投資家等:182)
  機関投資家等・・・銀行(都市銀行・地方銀行・信託銀行等)、保険会社(生損保)、共済組合、リース会社等
  ※以下では「機関投資家」とします
回答投資家数:108(年金基金:70、機関投資家:38)(有効回答率:18.0%)
調査時期:2016年10月~11月
調査方法:郵送による調査票の送付・回収

<アンケート調査の構成>
-  本アンケート調査の質問内容は、投資家のオルタナティブ投資の実績に応じ、以下の3段階の構成としている。
①:「これまでの」オルタナティブ投資の実績の有無
②:(①での回答内容を踏まえ)「現在の」オルタナティブ投資の実績の有無
③:(②での回答内容を踏まえ)現在のオルタナティブ投資における「不動産」への投資残高の有無

<調査結果>

1.オルタナティブ商品への投資実績および投資方針について

①:オルタナティブ商品への投資実績の有無
回答のあった年金基金の86%、機関投資家の92%がオルタナティブ商品への「投資実績あり」と回答した。
年金基金では実績ありとする回答割合は 2012 年調査以降ほとんど変化していないが、機関投資家では実績ありとの回答が例年よりも10%超増加した。

②:オルタナティブ商品への投資を行っていない理由
オルタナティブ商品への投資実績がないと回答した投資家が投資を行っていない理由については、「運用対象に含めていない」との回答が合計 11 件で最多となり、次いで、「流動性が低い」・「オルタナティブ投資に対する知識が乏しい」が各5件という結果となった。「流動性が低い」との回答は2015年調査では9件で最多回答であったが、今回調査では5件に減少した。
マイナス金利導入等の外部環境の変化も踏まえ、今後オルタナティブ投資を運用対象に含める動きが見られるかどうかについて、次回以降の結果が注目される。

③:オルタナティブ投資を行った理由
オルタナティブ投資を行った理由としては、「分散投資効果」との回答が合計79件と最も多く、次いで「リターンの向上」、「安定的なインカムゲイン(分配金)の確保」となった。

オルタナティブ商品への投資実績があると回答した投資家に対して質問した、投資実績がある具体的なオルタナティブ商品については、年金基金と機関投資家の合計で「ヘッジファンド」が 70 件と最も多く、次いで「不動産」が63件、「プライベート・エクイティ」が41件となった。ただし、機関投資家では「不動産」が35件で最多となった。年金基金では、「その他」の回答も多く、その内容として「保険関連商品」との回答が多数を占めた。

2.不動産への投資実績および投資方針について

①:不動産投資を行った背景と目的
現在、不動産投資を実施している投資家に対して、不動産投資を行う理由について質問したところ、「安定的なインカムゲイン(分配金)の確保」が52件で最多となり、次いで「分散投資効果」(51件)となった。既述のオルタナティブ投資を行った理由(グラフ③)では「分散投資効果」との回答が最多で、次いで「リターンの向上」となり、「安定的なインカムゲイン(分配金)の確保」は 3 番目に多い回答であった点と比較すると、不動産投資に際しては、安定的なインカムゲインの獲得に主眼を置く投資家が多いことがうかがえる。

②:不動産投資運用資産の内訳
現在、不動産投資残高がある投資家の具体的な不動産投資商品に関しては、「国内不動産私募ファンド(オープンエンド型)」が年金基金では39%(16件)、機関投資家では22%(24件)となり、いずれにおいても最多割合を占めた。
2012 年調査からの推移をみると、年金基金においては、「国内不動産私募ファンド(クローズドエンド型)」が減少傾向にある一方で、オープンエンド型の回答割合は増加傾向にあり、今回調査では 40%弱にまで割合が増加した。機関投資家においては、「J-REIT」が減少傾向にある一方、オープンエンド型の回答割合は増加している。不動産投資においてオープンエンド型私募ファンドが主力商品となってきていることがうかがえる。

③:今後の不動産投資について
不動産投資残高がない投資家も含め今後の不動産投資のスタンスについて質問したところ、年金基金では「不動産投資を行っておらず、今後も行う予定はない」とする回答が最多となったが、機関投資家では「不動産投資を実行する/増やす予定である」とする回答が最多となった。年金基金・機関投資家いずれにおいても「不動産投資を減らす予定である」とする回答はなかった。現在不動産投資を行っておらず、今後も行う予定のない投資家層が年金基金では約 4 割を占める一方、機関投資家ではわずか 5%であり、不動産投資に対する両者のスタンスには差があるといえる。全体では、「投資検討すべき投資対象の一つ」と考える投資家層、現状維持の投資家層も含め、不動産投資に前向きな回答が7割程度を占める結果となった。
「不動産投資を実行する/増やす予定である」、「不動産投資は、投資検討すべき投資対象の一つとして考えている」と回答した投資家に、その具体的な投資商品を質問したところ、年金基金においては、「国内不動産を投資対象とした私募ファンド(オープンエンド型)」という回答が 5 年連続で最多となった。また、「海外不動産を投資対象とした私募ファンド(オープンエンド型)」の回答割合も増加しており、国内/海外問わずオープンエンド型不動産ファンドへの注目度が高まっていることがうかがえる。機関投資家においては、これまでの調査では「J-REIT」が最多であったが、今回調査では年金基金と同様に「国内不動産を投資対象とした私募ファンド(オープンエンド型)」とする回答が最多となった。

3.望まれる不動産投資水準や条件について

現在、不動産投資残高のある投資家に対して、実物不動産(不動産信託受益権を含む)または不動産私募ファンドに投資する場合、どのような水準・条件を望むかについて質問したところ、以下の結果となった。

①:ファンドタイプ
検討可能なファンドタイプについては、「オープンエンド型」が年金基金では 53%、機関投資家では 44%を占めた。オープンエンド型への投資意欲は依然として高いといえるが、過去調査と比較すると年金基金、機関投資家いずれにおいてもその回答割合はやや低下している。

②:投資期間
不動産投資を行う際の投資期間については、年金基金では「3年以上~5年未満」が42%を占めた。2012年調査から前回調査までは 7 年以上の中長期ファンドへの回答割合が増加傾向にあったが、今回調査ではその傾向が反転した。一方、機関投資家では「7年以上~10年未満」、「10年以上」の合計が47%を占め、中長期ファンドの回答割合はやや増加した。なお、上記グラフ⑨の結果でも分かるように、年金基金において「3年以上~5 年未満」を選択した投資家の多くがファンドタイプでは「オープンエンド型」を選択していることから、これらの回答は短期転売型のファンドを念頭においた回答ではないものと考えられ、オープンエンドファンド市場内での銘柄の組み替えの可能性もある。今後、年金基金において比較的短期間の不動産投資が主流となるのか、次回以降の調査結果が注目される。

③:レバレッジ水準
年金基金では「30%以上~40%未満」が 43%で最多となり、次いで「レバレッジ不要」が 30%となった。2014年調査以降 50%以上とする回答は見られず、低レバレッジでリスクを抑えた不動産投資への志向が継続している。一方、機関投資家においては、「40%以上~50%未満」が 44%で最多となり、次いで「レバレッジ不要」(22%)となった。50%以上とする回答は合計でわずか6%にとどまり、2014年調査以降レバレッジの低下傾向が顕著である。
年金基金と機関投資家でボリュームゾーンは一段階異なる結果となったが、いずれにおいても LTV 水準を40%前後としているオープンエンド型ファンドを念頭においた回答が多いものと推察される。

④:投資対象地域
検討可能な国内の投資対象地域については、年金基金では「首都圏」が29%で最多となり、機関投資家では「東京 23 区」が 29%で最多となった。「東京 23 区」と「首都圏」の回答割合を合計すると、年金基金では 54%、機関投資家では57%といずれも過半数を占めるが、「近畿圏」、「名古屋圏」も一定の割合を占めており、首都圏に加え「近畿圏」、「名古屋圏」を始めとする地方の中核都市にも分散投資する意向の投資家が多いことがうかがえる。

⑤:投資対象プロパティタイプ
検討可能なプロパティタイプについては、年金基金、機関投資家いずれにおいても、「オフィス」、「賃貸住宅」、「商業施設」、「物流施設」が20%前後で概ね同程度の回答割合となり、過去調査と比較してあまり変化は見られなかった。主要4タイプについては全て検討可能としている投資家も多く、特に機関投資家では「ホテル」を含めた 5 タイプ全てとする回答も多くみられた。物件取得が困難な状況が継続しているなかで、検討可能なプロパティタイプを幅広く見ることにより、投資機会を確保しようと考える投資家が多いものと推察される。

⑥:運用会社
運用会社の選定において注視する項目は、年金基金と機関投資家の回答数の合計で「運用実績」が46件で最多となり、他の項目を 10 件以上上回った。 そのほか、「信用力(クレジット)」(33 件)、「適切な情報開示」(33件)、「物件取得能力」(32件)が上位となり、年金基金、機関投資家それぞれの上位の回答はほぼ同様であった。
上位となった項目は過去調査でも同様に回答数が多く、投資家が運用会社を選定する際に重視する項目に変化はないことがうかがえる。

⑦:リターン水準
現在不動産投資残高がない投資家も含め、不動産投資を行う場合の期待リターンについて質問した。
それぞれの項目の回答の平均値を見ると、単年度配当利回りについては、年金基金は 4.74%、機関投資家は3.94%となった。年金基金は2012年調査以降4%台半ば~後半で推移しているが、機関投資家は低下傾向にあり、2012年調査からは約1%低下した。総合収益率については、今回調査では全資産に対し不動産資産の期待リターンが年金基金は 2.10%、機関投資家は 2.78%高い結果となった。2012 年調査以降、全資産に対する不動産資産のスプレッドは、年金基金、機関投資家いずれにおいても概ね2~3%となっており、投資家の不動産に対する期待リターンは依然として高いことが分かる。

4.オープンエンド型不動産私募ファンド(いわゆる私募REIT)について

①:私募REIT投資の検討状況
年金基金では、「名称を聞いたことがあるが、何も検討していない」という回答が最多である状況に変化はないものの、その回答割合は前回調査よりやや低下し、「検討した結果、投資しないことを決定した」との回答割合も、2014 年調査以降低下傾向にある。また、「既に投資している」の回答割合が前回調査から微増したほか、「興味はある」、「将来的に投資を行う可能性がある」の回答割合も増加している。機関投資家では、前回調査から回答社数が大幅に増加している中でも、「既に投資している」の回答割合が前回調査から倍増し 66%にのぼった。機関投資家の私募REIT投資が加速したのは、マイナス金利政策の導入の影響もあるものと考えられる。

②:私募REITに対する認識
年金基金、機関投資家ともに「非上場であり、上場REITに比べて投資口の価格変動リスクが小さい」との回答割合が最多となった。年金基金においては、「知らない、分からない」という回答割合は減少傾向にあり、認知度が少しずつ向上していることがうかがえる。機関投資家においては、「流動性が低いと認識」の回答割合が低下した一方、「要求利回り水準に見合っている」、「リファイナンスリスクが低い」などプラスイメージの項目の回答割合が増加しており、私募REITの商品イメージが向上している様子がうかがえる。

5.不動産投資を行ううえで必要な条件について

不動産投資を行ううえで必要なインフラ条件としては、年金基金、機関投資家ともに「一定の流動性の確保・向上」が最多となった。そのほか、「運用方針に適合した投資商品の提供」、「投資実行時の運用会社・信託銀行等からの十分な情報開示」、「不動産運用会社の運用能力」、「投資実行中における運用会社・信託銀行等からの適切な運用報告」が年金基金、機関投資家双方で上位に挙げられた。これらの項目は過去調査でも上位に挙げられており、不動産投資に際し、流動性の向上や十分な情報開示が引き続き投資家に求められていることが分かる。

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[三井住友トラスト基礎研究所]
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