高齢者向けの住まいへの転居者を対象とした「転居前の生活状況」に関する調査 

2014年12月23日
高齢者住宅研究所は、高齢者向けの住まいへの転居者を対象とした「転居前の生活状況に関する調査」を実施。

【調査結果概要】

高齢者が在宅での生活を継続することを阻害する要因として転居前の生活状況の分析から以下のことが導き出された。

① 単独世帯からの入居が約6割を占めている

② 転居のキーパーソンは約5割が子どもである

③ 医療機関への入院をきっかけに転居をする者が約4割を占めている

④ 「転居の状況」として、心理的要因を約3割の者が挙げている

⑤ 重介護者のフォーマルサービスの頻回な利用は20%にも満たない


【調査結果】

2-1 基本情報の分析
2-1-1 調査対象者の転居時の基本的属性


男性119名(38%、N=313)、女性194名(62%)、平均年齢84.5歳であった。転居当時の介護度認定の状況は、軽介護者(自立~要介護2)の転居が206名、66%を占めている。
また、世帯状況として、単独世帯が最も多く175名(56%)であった。世帯別の介護度平均*をみると、単独世帯1.44、夫婦のみ世帯2.26、子夫婦と同居2.24となり、単独世帯は低い。

*平均介護度は、要支援1=0.375、要支援2=1、要介護1~5については、その介護度、すなわち要介護1=1、要介護2=2…、要介護5=5として計算

どのような経緯で転居に至ったか、転居前の 2週間をどこで過ごしたかについて、全数では、自宅が最も多く 143 名(46%)、次いで医療機関 114名(36%)であった。在宅に戻ることなく、医療機関からそのまま転居している。転居時の世帯状況に関わらず同傾向であった。

2-1-2 転居の経緯・生活歴の分類

調査項目のうち、ケアマネに確認した転居の原因と生活歴を分析した。それらを分類し(以下、「転居の状況」と呼ぶ。)在宅生活継続をすることなく、転居をした状況について、当てはまる大項目全てに1をつけ、データ数を集計した。
転居した高齢者本人の状況に起因するもの、本人以外の状況に起因するものに大きく分類すると、高齢者本人、本人以外の両方の事由に該当する者が172名(55%、N=313)、高齢者本人のみの事由に該当する者が107名(34%)、本人以外の事由に該当する者が22名(7%)であった。本来、高齢者本人の事由に該当することであるはずだが、本人以外の事由にのみ該当する者が存在している。

高齢者本人の状況、本人以外の状況すべてに起因するものを集計した結果、内・外科系疾患要因が最も多く 201 件(N=313 、複数回答)、次いで家族の状況要因、191 件、心理要因、99 件と続いている。
以下、数が多い「単独世帯者」、「軽介護者」に注目しながら、「家族形態」「介護度別」に在宅生活の継続を困難とした「転居の状況」を考察する。

2-2 世帯形態別の特徴
2-2-1 世帯形態を超えて家族への支援の重要性


転居当時の世帯別状況により、「転居の状況」を比較してみると、単独世帯(N=175)は、高齢者本人の内・外科系疾患要因 114 件、家族の状況要因 89 件、高齢者本人の心理的要因 65 件であるが、夫婦世帯(N=55)、子夫婦と同居(N=45)の場合、それぞれ、家族の状況要因 46 件、30 件、高齢者本人の内・外科系疾患要因 42 件、25 件、高齢者 自身の精神系疾患要因 19 件、8 件であった。どの世帯においても高齢者本人の内・外科系疾患要因は在宅生活を継続することを困難にする基本要因である。当要因は医療・介護サービスの利用にも関係し、適切な在宅支援の中心的要因といえる。

また、家族の状況要因も一定の割合を占めており、在宅生活継続に影響力があるといえる。家族状況とは「不安感・心配の発生」「負担感・疲労の発生」「介護対応、医療対応、生活支援の提供」等があり、これらに対する支援の必要がある。
調査対象住宅への転居の決定に関わるキーパーソンは誰かを調査した。転居に関わるキーパーソンは、子が最も多く 212 件(N=313 )、次いで高齢者本人 108件である。子の影響力が大きいことがうかがえた。世帯、介護度に関わらず、上記と同傾向であった。
転居時自立であった 16 名ついては、詳しく転居の決定主体について本人認識を聞いているが、「話を出す」「住宅を探す」「転居の決定」という転居プロセスへの家族の介入が半数以上見られた。家族に対する転居選択への支援が必要である。

2-2-2 単独世帯者「心理」サポートの重要性

「転居の状況」を世帯別で比較すると、最も多数を占める、単独世帯は、夫婦のみ世帯、子夫婦と同居世帯とは傾向が異なり、心理的要因、すなわち、高齢者本人の不安感・心配の発生、意欲の低下が第 3 位を占めていた。内・外科的疾患要因、家族の状況要因に加えて、心理的要因へのサポートが必要である。不安の詳細については個々で異なるために、細やかな相談対応は必須であると考えられる。

2-3 介護度別の特徴
2-3-1 軽介護者「心理」サポートの重要性


軽介護者、重介護者ごとに「転居の状況」を比較してみた。軽介護者は、家族の状況要因 63%(129 名、N=206)、内・外科的疾患要因 57%(117 名)、重介護者は、内・外科的疾患要因 81%(59 名、N=73)、家族の状況要因 55%(40 名)を挙げていた。順位の逆転はみられるものの、家族の状況要因はほぼ同割合で挙がっている。ただ、軽介護度者は 39%(80 名)が心理的要因を挙げているのに対し、重介護者は 18%(13 名)である。軽介護者にはより心理的要因へのアプローチが必要と考えられる。
転居時自立であった 16 名には、a)転居の理由、b) 転居の必要が発生した状況の変化について、本人に聞き取り調査を行っているが、転居の理由については、 高齢者本人の心理的要因と家族の状況要因が各 9 名、高齢者本人の身体的理由、生活環境と考えている者が各4 名であり、高齢者本人の心理面を詳細にみてみると、不安感を挙げている者が 7 名であった。自立者への聞き取り調査からも心理的要因への支援の重要性を見ることができる。

2-3-2 重介護者、退院支援の重要性

「2-3-1 軽介護者「心理」サポートの重要性」で述べたが、重介護者は転居の状況に内・外科的疾患要因が多い。また、「2-1-1調査対象者の転居時の基本的属性」で述べたが、どのような経緯で転居に至ったかについて、介護度別に入居前 2 週間の居場所を分析すると、自立・要支援の者は自宅からの転居の割合が高く、介護度1以上の者は医療機関か らの転居の占める割合が一層増加している。介護度が高いほど 医
療機関から転居する割合が高く、自宅復帰が困難になっていた。医療機関等からの退院支援、特に「要介護1」以上の者は十分に退院後の在宅支援を行う必要性がある。

2-3-3 重介護者、フォーマルサービスの利用状況

転居1年前から転居までのサービス機関によるサービス(フォーマルサービス)の利用状況をみると、全数では、利用していない者が 34%(105 人)、週に数回昼間のみ利用のものが 37%(107 人)であり、両者で全体の 71%を占めていた。さらに重介護者(N=51、転居1年前に医療機関、入居施設において包括的サービスを利用していない者のみ抽出)を詳細にみたところ、毎日フォーマルサービスを利用している者は全体の 14%、夜間のフォーマルサービスを利用している者は全体の 2%、その他として、ショートステイを利用している者が 14%であった。重介護者であっても頻回なフォーマルサービスの利用はごくわずかに限られる。重介護者の転居状況の第一位は内・外科的疾患要因であり、頻回なサービス利用の需要は高いと予想される。フォーマルサービスの利用については課題があるのではないだろうか。

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