IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、IT関連産業の人材動向、産学におけるIT教育の状況、IT人材個人の意識などについて、最新の動向や実態を把握することを目的とした調査を実施し、「IT人材白書2015 新たなステージは見えているか ~ITで“次なる世界”をデザインせよ~」を2015年4月24日に発行します。

IPAでは、毎年、IT関連産業の人材動向、産学におけるIT教育の状況、IT人材個人の意識など、最新のIT人材の動向や実態を把握することを目的に調査を実施しており、「IT人材白書」として発行(*1)しています。今回、2014年度の調査結果を基に「IT人材白書2015」として取りまとめ、2015年4月24日に発行します。
今回、従来のIT人材の動向調査に加え、IT人材を取り巻く環境の変化や、変化に伴い求められる技術が高度化・多様化するIT人材について調査を実施しました。本書では、IoT(*2)やM2M(*3)、データ活用ビジネスによる産業横断的なIT活用と求められる人材、IT企業における人材不足感、IT を活用した新事業・新ビジネスの取り組みについて、それらの動向・実態の一部を明らかにしています。

【「IT人材白書2015」のポイント】

① IoT、M2M、データ活用に求められる人材

スマートフォンなどモバイルデバイスが急速に普及し、ネットワークインフラの発展により、国内を流通するデータ量は年々増加傾向(*4)にあり、さらにIoTの浸透によって、データを活用した新たなサービスやビジネスモデルの創出、あらゆる産業の垣根を越えたITによるイノベーションが起こることが期待される。また、それらを実現するための人材の必要性・重要性は、今後ますます高まっていくものと考えられる。
本書では、今後求められる人材や技術に加え、新たなビジネスを生み出すベンチャー企業・起業家の実態や、複雑化する社会問題をITと複数の専門領域(学問)で解決へ導く「デザイン学」など、新たな潮流の中で求められる人材について分析している。

(1)オープン化・ネットワーク化が進む中で、組込み技術者に求められる技術力

IoTと関係性が高い組込み技術者に対して、「現状と今後、必要と考える技術力」について調査したところ、組込み技術者は、「顧客(業務)分析力、企画力」(36.3%)や「アプリケーション技術」(31.8%)を現状必要な技術力として重視する一方で、今後必要となる技術力から現状必要となる技術力を差し引いた値(DI値(*5))では、「情報セキュリティ技術」(7.6ポイント)、「スマートデバイス」(7.2ポイント)、「ウェブ技術」(5.4ポイント)、「オープンソースソフトウェア」(1.9ポイント)がプラスの傾向であり、今後必要な技術力として重視していることがうかがえる。また、「ネットワーク技術」は現状・今後いずれも必要な技術力であることがうかがえる。
組込み技術者は、組込み製品のオープン化、ネットワーク化が進むことで、サイバー攻撃など情報セキュリティ技術にも高い関心を寄せており、“モノに閉じられた技術から、モノを「つなぐ」技術への変化”を意識していると言える。

(2)モバイル開発関連人材に求められる複数の技術領域

スマートフォンなどモバイルデバイスには、通話やウェブを閲覧する機能から、GPSを用いた位置情報や、心拍数などの生体情報を取得・提供するなど多様な機能が備わっている。モバイル開発関連の人材を対象に「今後、モバイルソリューションにおける重要な技術領域」を調査したところ、モバイル開発関連の人材は、核となる「ワイヤレス・ネットワーク技術」(37.7%)のほかに、「M2M開発(組込制御・センサー・GW(*6)等)」(37.7%)、「クラウド開発技術」(36.9%)、「ビッグデータ解析(統計)」(33.1%)、「情報セキュリティ技術」(31.5%)を重要な技術領域と考えており、単独の技術だけでなく複数の技術領域が必要であることがうかがえる。
今後、モバイルソリューションにおいては、ワイヤレス・ネットワーク技術を基盤としながらも、M2Mやクラウドなど複数の技術を連携し、柔軟に対応できる人材が必要と考えられる。

(3)データ活用人材に求められるスキルの現状

ITやネットワークインフラの発展により、大量に生成・流通・蓄積した“ビッグデータ”を新たなサービスやビジネスモデルの創出、業務課題の改善に活用する動きは、今後ますます活発化していくものと考えられている。これに伴い、データの活用によって価値を創出する“データ活用人材”の重要性は高まっていくものと考えられる。
データ活用において必要な人材・スキルの現状を把握するため、データ活用に取り組んでいる企業・自治体に対してインタビュー調査を実施したところ、データ活用人材には3つのスキルが必要であることがわかった。まず、事業や業務とデータ分析を結びつけるために必要となる「ビジネススキル」。加えて、統計学に基づく「データ分析スキル」。そして、データを分析・活用するために最適なIT基盤の選定や分析ツールを活用する「ITスキル」が必要である。
しかし、これらのスキルを一人で兼ね備えることは難しく、それぞれのスキルを有する専門的な人材を集めたチームや組織によってデータ活用を実現しているケースが多い。また、各事業部門とのやり取りや、データ活用を行うチーム内での意思疎通が重要であるため、「コミュニケーション力」も重要なスキルの一つとして求められる。

② 二次請けへのしわ寄せが見えたIT人材の不足感、必要な技術力に対する意識のギャップ

(1)IT企業における「量」の不足感から浮き彫りとなった実態

IT企業におけるIT人材の「量」に対する過不足感は、「大幅に不足している」「やや不足している」を合計した割合は87.4%であり、2007年度調査と同じ水準まで戻っている(別紙-図5)。また、今回初めて人材の不足感を主要顧客別にみた結果、「ユーザー企業(IT部門)」、「IT企業(プライム)」、「IT企業(二次請け)」の順で「量」的な不足感が高まっており、受託開発業務に起因する人材不足による影響を示している可能性がうかがえる。
年々高まっているIT企業における量の不足感は、IT業界独特の受託開発業務を中心とする下請け構造上の問題であることが浮き彫りになったと言える。

(2)IT企業が求める技術力とIT人材個人が重視する技術力でギャップ

IT企業は、今後IT人材に求める技術力として「顧客(業務)分析力、企画力」(69.4%)や「アプリケーション技術」(49.2%)、「プロジェクトマネジメント手法」(30.4%)など従来の受託開発業務に関係する技術力を重視している一方、IT企業におけるIT技術者は、現状必要な技術力として「データベース技術」(20.9%)や「情報セキュリティ技術」(22.3%)などを重視しており、今後必要な技術力として「データ解析(統計)」(12.2%)、「スマートデバイス」(11.2%)など新たな分野の技術力を重視している。
IT技術者は、受託開発業務に必要な技術力に限らず、今後、新たな分野で活かせる技術力の重要性を認識していると考えられる。

③ 経営者から期待されるIT部門へ、“攻めのIT”を担う人材育成が不十分

(1)IT部門の役割は“守りのIT”業務が中心

ユーザー企業におけるIT業務の役割についてIT部門に調査したところ、ユーザー企業のIT部門が担当するIT業務は、「全社ITの企画」(87.1%)、「情報セキュリティリスク管理」(83.0%)、「社内システム運用管理」(72.4%)など、従来と同じ“守りのIT”とされる業務が中心である。その一方で、「社内業務プロセス設計」、「データ分析等の高度化による情報活用」など“攻めのIT”活用に関するIT業務は、ユーザー企業の事業部門がIT部門と同程度に担当している実態にある。

(2)今後期待されている役割は“攻めのIT”と認識しながらも、人材育成は不十分

IT部門に対して「現在と今後、IT部門に期待されていると感じる役割」を調査したところ、現在期待されている役割は、「業務の合理化、省力化等への寄与」(73.1%)、「業務・システムの全体最適化」(61.3%)であり、今後期待されている役割も同様である。しかし、現状と今後の期待されている役割の差(DI値)では、「新たな事業やサービスを生み出すための事業部門との協業や支援」(22.5ポイント)や、「業務プロセスの変革」(12.8ポイント)、「現行ビジネスの拡大/拡充のための新たな販路や顧客開拓支援」(9.7ポイント)など“攻めのIT”活用に関する業務の値がプラスの傾向にある。IT部門は、“守りのIT”の枠を超え、“攻めのIT”活用の役割へ重点が移りつつあると自ら認識していることがうかがえる。
“攻めのIT”活用では、自社を取り巻く環境変化に柔軟に対応し、ITとビジネスの融合領域において新たなサービスを創出する必要があると考えられる。ユーザー企業に対して“IT融合人材(*7)”の必要性を調査した結果、ユーザー企業の約4割が必要性を認識しているものの、必要性を認識している企業のうち、約7割が人材の確保ができていない。また、人材を育成する組織環境の整備も不十分である。

【脚注】

(*1) 2008年度より調査を開始し、2009年より「IT人材白書2009」を発行している。今回で7回目の発行となる。

(*2) IoT(Internet of Things): 「モノのインターネット」と言われ、世の中に存在するあらゆる「モノ」が、情報交換するために直接インターネットに接続され相互に制御する仕組み。

(*3) M2M(Machine to Machine):ネットワーク接続された「機器」が相互にデータ交換を行い、センサーで計測したデータを基に機器を遠隔制御するためのシステム。

(*4) 総務省「平成26年度版 情報通信白書」によれば、国内で流通しているデータ量は年々増加傾向にあり、2013年は約13.5エクサバイト(13,516,492テラバイト)のデータ量が流通する見込みとされている。

(*5) DI(Diffusion Index):「上昇/下落」や「良い/悪い」など定性的な指標の動きを示す指数。本書では「今後」から「現状」を差し引いた値を算出し、今後の動向を示す指数としている。

(*6) GW(gateway)

(*7) ITとビジネスの融合領域においてイノベーションを創出し、新事業や新サービスを生み出すことができる人材。

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