株式価値向上に向けた取り組みについての調査(上場企業1,088社、機関投資家167社対象) 

2017年03月21日
生命保険協会は、株主・投資家の立場から、株式価値向上に向けた取り組みについて、昭和49年度より43年間に亘り継続的に調査を行っております。

平成28年度は、上場企業1,088社、機関投資家167社を対象にアンケート調査を実施し、現状分析を行った上で、当協会からの要望をまとめました。当調査においては、同じアンケート項目に関して企業と投資家の回答を比較することで両者の意識がどのように異なるのか、あるいは従来から継続して調査を行っている項目についてどのような変化が見られるのか、といった視点を中心に分析を行っております。

【調査結果】

2章(1)取締役会の実効性の評価について

・ 企業・投資家の双方は、今後強化していくべき取り組みとして「取締役会の実効性の評価」を挙げている【図表1】。取締役会評価を実施している企業の割合は、約半数に留まるものの【図表2】、実施している企業の8割以上が「課題発見につながり、有効であった」と回答しており【図表3】、今後更なる取り組みの拡大が期待される。

・ 投資家は、「社外役員の拡充」や「取締役会全体の経験や専門性のバランス」を取締役会の実効性向上に向けた課題として捉えており、企業の認識と乖離が見られる【図表4】。また、多くの投資家は、「取締役会の実効性の評価」に関する開示内容の充実を期待している【図表5】。取締役会評価を通じて浮き彫りとなった課題を改善していくことは、取締役会の機能強化につながり、その取り組みについて投資家に伝えていくことは、企業と投資家の認識ギャップを埋める上で重要と考えられ、取締役会評価の充実と結果の開示を要望したい。

2章(2)社外取締役について

・ コーポレート・ガバナンスに関する今後の取り組みとして、投資家は「独立した社外役員」を期待する一方、企業の意欲は低く、両者の認識には乖離が見られる【図表1】。取締役会の実効性向上に向けた課題として、企業・投資家共に「社外役員が機能発揮できる環境整備」を重視している一方、「社外役員の拡充」という点では認識ギャップが大きい【図表4】。

・ 望ましい社外取締役の人数・取締役会に占める比率は、企業は「2名以上」、投資家は「取締役会の1/3以上」との回答が最も多い【図表6】。2名以上の社外取締役を選任する企業は増加しているが【図表7】、投資家は、企業に対してコーポレートガバナンス・コードで最低限求められている独立社外取締役2名の確保だけでなく、より闊達な議論を促す観点から、取締役会の規模等を考慮した上で社外取締役が発言しやすい環境の構築など実効的な取り組みを求めていると考えられ、企業には必要に応じて更なる社外取締役の拡充を期待したい。

3章(1)経営計画の設定・公表

・ 数値目標を含む中期経営計画を公表している企業の割合は、約8割と年々増加傾向にあり、経営計画の公表は一定程度浸透している【図表8】。しかし、投資家がコーポレート・ガバナンスに関して、取り組み強化を期待する事項は、依然として「経営計画・経営戦略」との回答が最も多く、投資家は企業の更なる取り組みを期待している【図表1】。

・ 多くの投資家は、取締役会の議題として「経営目標・指標の適切性」を今後重点的に取り上げるべきとしている【図表9】。また、中期経営計画において「長期的な経営ビジョン・スタンスの説明」や「事業環境や見通しに関する分析を踏まえた戦略の策定」を改善すべきとしている【図表10】。長期的な経営ビジョンに基づき、達成すべき数値目標とそれを実現するための具体的な経営戦略が示されることにより、投資家は企業の価値創造に向けた意思を明確に捉えることができるため、数値目標と事業戦略を兼ね備えた経営計画が公表されることを期待したい。

3章(2)資本効率について

・ 投資家は、経営指標としてROEを重視している一方、企業は売上・利益の絶対額や伸び率を重視する声も多く、両者のスタンスには乖離が見られる【図表11】。また、ROEの目標値を設定・公表している企業の割合は、昨年度から増加したものの、依然として全体の半数程度に留まっている【図表12】。

・ 資本コストに対するROE水準の見方について双方の認識ギャップは大きいほか【図表13】、投資家が中長期的に求めるROE水準と企業の実態には乖離がある【図表14】【図表15】。ROEが低水準に留まる企業を中心に、資本コストを分析・把握した上で、ROEの目標値を設定・公表することが望まれるほか、中長期的に投資家の望むROE水準の達成を目指して収益性を高めることを期待したい。

3章(2)資本効率について

・ 日本企業のROEは、利益率の低さから米国企業を大きく下回って推移している【図表16】【図表17】。また、日本企業のROEは、投資家の期待するROE水準を下回っており、日本企業は資本効率の向上へ向けた取り組みが求められている【図表18】。

・ 資本効率の向上に向けた取り組みとして、投資家は、「事業の選択と集中(経営ビジョンに則した事業ポートフォリオの見直し・組換え)」を期待しているものの、同項目に注力する企業は少なく、両者の認識ギャップが示された【図表19】。投資家は、企業に対して事業別の採算管理や客観的基準の活用等により、自社の強みを活かせる中核的事業を見極めた上で、経営資源を投入し、製品・サービスの競争力を高め、資本効率向上につなげていくことを求めており【図表20】、経営ビジョンに則した事業ポートフォリオの見直しが進むことを期待したい。

3章(3)投資について

・ 日本企業の内部留保額は、過去最高水準で推移している【図表21】。多くの投資家は、企業が手元資金を余剰に抱えていると捉えており【図表22】、手元資金が成長に向けた投資に活用されることを最も望んでいる【図表23】。

・ 約半数の投資家は、投資実行時の企業側からの説明に不足を感じている【図表24】。投資実行時には、経営計画における位置づけのみならず、投資家が求める「投資の採算性」や「投資のリスク」も含めた説明内容の一層の充実を図ることで、投資がいかに企業価値向上につながるかを投資家に十分に説明することが望まれる【図表25】。企業には、投資効率を意識しつつ、競争優位性を築くための戦略的な投資に手元資金を活用していくことを期待したい。

3章(4)株主還元について 

・ 投資家は、経営指標として株主還元指標を重視している【図表26】。中長期的に望ましい配当性向については、「水準には拘らない」とする投資家と「30%以上40%未満」を中心に一定の配当性向を求める投資家とに回答は分かれているが【図表27】、いずれにしても投資家は、株主還元・配当水準に満足できない企業が多数存在していると認識している【図表28】。

・ 企業・投資家双方は、株主還元の適切性を考える際に「総還元性向・配当性向の水準」を重視する点では一致している【図表29】。しかし、企業は「株主還元・配当の安定性」を強く重視する一方、投資家は企業の置かれている状況を「投資機会の有無」など様々な観点から考慮し、株主還元方針が説明されることを望んでいる。配当性向が30%を下回る企業においては、特段資金ニーズが無く、内部留保が厚い企業を中心に【図表30】、投資家が一つの目安と考える配当性向30%以上の水準をターゲットに配当還元の充実に取り組むことが望まれる。

4章 (1,2)対話の現状・課題について

・ 経営に外部の視点を取り込むことは、規律ある経営につながるため、当協会では、株主との対話内容を取締役会で共有化し、投資家からの助言や指摘を経営に活用していくことを要望してきた。多くの企業は、経営陣自らが投資家と対話することやレポートの作成など様々な方法を用いて、対話内容を経営層で共有化していると回答しているが【図表31】【図表32】、投資家は、「対話内容が経営層に届いていない」と感じており【図表33】、両者の認識にはギャップが見られる。

・ 経営トップを含む経営陣の平均的な年間対話回数は、平均50回程度となっているが【図表34】、対話回数が一桁に留まる企業も3割程度いるなど、各社の取り組みにはばらつきが見られる【図表35】。投資家の「経営トップが対話に関与していない」という課題意識も踏まえると、経営トップ自らが関与する形で対話活動や情報発信を率先していくことが期待されている。経営トップをはじめとする経営陣は、積極的に対話活動に参加し、共有化された対話内容を踏まえた上で、企業価値向上に向けた取り組みを実行・説明していくことが望まれる。

・ 対話に際して、企業は、投資家の「短期的なテーマのみに基づく対話の実施」を課題と捉えている【図表37】。また企業は、「経営戦略等中長期的な視野に立った議論の充実」を対話の利点と考えている【図表38】。投資家においては、短期的視点での対話ではなく、投資家の視点を経営に取り込もうとする意欲を企業に喚起するような、高い視座での対話を実現することを期待し、中長期的視点での対話推進を要望する。

・ 対話に携わる人員について、企業は「2~3人」、投資家は「11人以上」との回答が最も多い【図表39】。対話を充実させる上で企業・投資家共に「対話に割けるリソースの不足」を課題として捉えていることが示された【図表40】【図表41】。対話を一層推進していく上では、相応の人的資源が必要となるため、企業・投資家双方に対話要員の拡充を要望する。

4章 (3)株主総会での議決権行使について

・ 議決権行使を充実させるために、投資家は「議案の説明充実」を重視している【図表42】。企業は、過年度に反対の多かった議案に対して、反対理由を分析した上で、対話や招集通知書を通じて自社の考え方を示していくことが期待されている【図表43】。双方の考え方について相互理解をより深める観点から、投資家からの反対理由の分析も踏まえた議案内容の説明充実を要望したい。また、企業の状況を把握し賛否判断を行う上では、十分な検討時間が確保されることが重要である。集中日に株主総会を開催する企業数は、減少傾向にあるが【図表44】、依然として招集通知の早期発送・開示や、集中日の回避を期待する投資家は多く【図表42】、検討時間確保のための環境改善に向けて様々な工夫が凝らされることを要望したい。

・ 投資家の議決権行使における課題として、議決権行使助言会社の判断に影響を受けることや賛否判断の理由が不明であることを、企業は挙げている【図表45】。相互理解を促進していくためにも、投資家は、議決権行使助言会社の賛否判断に過度に依存することなく、企業の状況を踏まえた賛否判断を行うと同時に、その判断理由を企業に伝えていく努力が求められる。


【調査概要】
実施期間:平成28年10月4日~11月4日
企業向け:<送付>上場企業 1,088社 <回答>572社(回答率 52.6%)
投資家向け : <送付>機関投資家 167社 <回答>93社(回答率 55.7%)

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