役員報酬サーベイ-Mercer Executive Remuneration Guides 2017 

2018年07月05日

人事・組織コンサルティング会社マーサーの日本法人であるマーサージャパンは、日本における役員報酬に関する市場調査「Mercer Executive Remuneration Guides (以下MERG) 」の2017年版レポートを発表した。

調査結果ハイライト


  • 参加企業数は過去最多の283社(前年比19社増加)
  • 社長の総直接報酬水準(基本報酬+短期インセンティブ+中長期インセンティブ)の中央値は8,853万円
  • 報酬決定ポリシー「あり」と回答した企業が約50%、うち多くの企業がベンチマーク
    企業群における50%ileを自社の報酬水準のターゲットとして設定
  • 日系企業は「役位」を基準に報酬水準を決定する傾向
  • 日系企業の中長期インセンティブ導入率が約60%にまで到達。日系参加企業の約40%が譲渡制限付株式報酬を導入し、かつ21%の企業が譲渡制限付株式報酬の「導入を検討中」と回答
  • 日系参加企業における任意設置の諮問委員会(報酬・指名)の設置状況は、報酬委員会が58%、指名委員会は48%となっており、一般的になりつつある
  • 日系企業では、約40%がサクセッションプランを導入済み、約30%が導入を検討
  • 約60%の日系企業が相談役・顧問制度を設置している一方、そのうちの約30%は廃止もしくは今後の方向性を検討中である

調査結果


2.報酬水準

■ 日系参加企業における社長の総直接報酬の中央値は8,853万円

本サーベイの結果からみると、日系企業の役員の総直接報酬は近年一貫して上昇傾向にあるといえる。しかし海外に目を転じると、依然諸外国より低い水準にあることが分かる。今後、グローバル経営を志向する多くの日系企業にとっては、グローバルでの優秀な経営人材の獲得・リテンションを妨げないよう、グローバルで一定の競争力を有する報酬水準を実現していくことが求められる。

3.報酬ポリシーの有無、ターゲット水準

■ 全参加企業で報酬ポリシーを定めているのは約50%弱
■ 「報酬ポリシーあり」の企業の多くが、ベンチマーク対象企業群における50%ile(中央値)をターゲットに設定

報酬決定プロセスの透明性に対する要請が強まる中で、日系の上場企業においても、未だ報酬水準ポリシーを明確に定めていない企業が一定数残っていることがうかがえる。

4.報酬決定要素

■ 報酬決定の要素として、多くの日系企業では「役位」を重視している

役位を報酬決定要素とする場合、社内における序列や位置づけを報酬に連動させることができる一方で、他社比較という面では、
報酬水準の比較対象企業が必ずしも同じ基準で役位を用いているわけではないこと、
同一企業内においても、役位がジョブサイズ(役割の大きさ)の序列と必ずしも一致していないこと、の2つの理由から必ずしも適切ではない、という課題がある。今後、日系企業でも、社外人材の登用やグローバルでの報酬ガバナンスを考慮した場合、「職務」や「役割の大きさ」を軸とした報酬水準設定が必要になると思われる。

5.LTIの導入状況と採用しているビークル

■ 中長期インセンティブの導入割合は、日系企業で66%

株主との利害共有や中長期的な企業価値向上を狙いとした、役員へのインセンティブ付与の観点から、中長期インセンティブの導入・拡大に対する社会的な要請が強くなっており、導入率は今後さらに高まっていくことが予想される。

■ 中長期インセンティブとして採用しているビークルとしては、中長期インセンティブに業績達成条件を付加することができる譲渡制限付株式が最も多く(34%)、通常型ストックオプション(29%)、株式報酬型ストックオプション(20%)が続く

昨今の税制改正の議論における譲渡制限付株式の導入促進の流れを受け、今年のサーベイでは譲渡制限付株式を導入している企業が大幅に増加した。株式報酬型ストックオプションや自社株信託スキーム等、日系企業独自のLTIビークルを見直す動きは今後も継続する可能性がある。

■ 日系参加企業の43%が、譲渡制限付株式を既に導入し、活用しており、21%が導入を検討
■ 中長期インセンティブの新たなビークルとして既に活用している企業が存在する一方で、損金算入要件など、先行きが不透明な点を考慮し、"様子見"の段階にある企業も存在

6.任意設置の諮問委員会設置状況

■ 報酬委員会を設置している企業は58%、指名委員会を設置している企業は48%(いずれも任意設置のみ)

マーサーの調査時点では半数程度に留まっているものの、2017年7月に実施された東京証券取引所の調査では、補充原則4-10(1):指名・報酬等の検討における独立社外取締役の関与・助言(例:独立社外取締役を主な構成員とする任意の諮問委員会の設置)に対して、約77%が“comply(遵守)”しており、諮問委員会の設置は一般的になりつつある。
日系企業においても諮問委員会の設置はプラクティスとしてスタンダードになりつつあるといえるが、形式要件を整えるだけでは十分ではなく、諮問委員会の目的を定め、いかに活用していくかを十分に検討するなどして、実効性のあるガバナンス体制を構築することが今後の日系企業の課題となる。

7.サクセッションプランニングの実施状況

​■ 経営陣における人材マネジメント上の課題として、特に「後継者育成」、「リーダーシップ開発」に課題を抱える企業が多い
■ 日系企業では、約40%がサクセッションプランを導入済み、約30%が導入を検討

多くの日系企業が経営陣の後継者育成を課題だと認識している一方、サクセッションプランニングを実際に実施している企業は約40%に留まっている。事業環境の変化や競争の激化に対応するためには、より競争力と持続性の伴った経営体制を構築する必要があり、体系的で実効性の高い後継者育成の仕組み作りが今後の日系企業の課題となる。

8.相談役・顧問の任命状況

■ 約60%の日系企業が相談役・顧問制度を設置している。一方、そのうちの約30%は廃止もしくは今後の方向性を検討中

相談役・顧問制度については、東京証券取引所が『コーポレートガバナンス報告書』(2017年8月)において、相談役・顧問の役割を記載・開示する欄を設置したように、当該制度の是非を問うのではなく、外部ステークホルダーに対して経営における相談役・顧問の実態を開示することが日系企業に求められている。
2017年3月発表の経済産業省による調査(『経済産業省におけるコーポレートガバナンスの実効性の向上に向けた取組について』)では、東京証券取引所第一部・第二部上場企業の78%に顧問・相談役制度が存在したものの、今回のマーサーのサーベイにも表れているように、その実態の精査が進むにつれ、当該制度の廃止を発表する企業も現れている。

■ 日系企業では、約80%の企業が「経営層に対する助言」もしくは「外部機関との関係構築」を目的として、相談役・顧問制度を設置

経済産業省による前述の調査においても、それぞれ40%弱の企業が「現経営陣への指示・指導」・「業界団体や財界での活動など」を目的として相談役・顧問制度を維持している。今後も透明性・実行性の高いガバナンスの実現に向けて積極的に情報を開示し、相談役・顧問の経営における役割を明確化することが求められている。

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