2014年度中南米日系進出企業経営実態調査 

2015年01月27日
ジェトロは、2014年9月16日から10月17日まで、中南米7カ国(メキシコ、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン、ブラジル)に進出している日系企業を対象に、経営実態に関するアンケート調査を実施。

【調査概要】
調査方法・実施時期:アンケート調査、2014年9月16日~10月17日
アンケート送付先:在中南米進出日系企業665社(回答企業数391社、有効回答率58.8%)
質問項目:1.企業業績、2.今後の事業展開の方向性、3.経営上の課題とその対応等

【調査結果概要】

(1)アジアの主要新興国と比べても際立つメキシコとコロンビアの良好な業況感
2014年の営業利益見込みが前年比で「改善」、「横ばい」、「悪化」すると回答した割合を基に計算した業況感を表すDI値(「改善」と回答した割合から「悪化」と回答した割合を引いた数値)は8.7ポイントとなった。これはリーマンショック直後の2009年以降で最も低い値だが、国別にみるとかなりばらつきがある。業況感が高いのはメキシコ(36.9)とコロンビア(33.3)であり、インド(35.3)に匹敵し、その他のアジア主要新興国(中国の16.3、タイの0.9、インドネシアの22.6)と比較しても相対的に高い数値である。2015年の業況感を表すDI値(見通し)でみると、コロンビアが77.8、メキシコが74.6であり、インドの58.2を大きく上回る結果となった。

(2)ブラジルの業況感は改善に向かうもメキシコとの差は開く
ブラジルの2014年の業況感を表すDI値(見込み)は0.6と不振だったが、2015年は46.9へと改善する見通し。しかし、メキシコ進出日系企業のDI値と比較すると大きな差が生まれている。この背景には、メキシコ進出日系企業の多くが自動車産業に関連する企業であり、メキシコの自動車生産が米国の好調な自動車販売に牽引されて活況を呈していること、積年の課題であったエネルギー改革が実現し、石油資源開発などエネルギー分野の投資活性化による経済成長の加速が期待できることなどがある。他方、ブラジル経済はブラジルコストに代表される高コスト構造や生産性の低さに起因する供給サイドの課題が山積みで、インフレの高止まりと低成長が続くスタグフレーションの様相を呈しており、明確な出口が見えない環境下にある。

(3)中国、ASEAN、インドの全てを上回るメキシコ進出日系企業の事業拡大傾向
今後1~2年の事業展開の方向性として、「拡大」と回答した割合は62.9%(246社)で、「現状維持」の33.2% (130社)、「縮小」の3.8%(15社)を大きく上回った。国別に見ると、コロンビアで88.9%、メキシコで81.6%が「拡大」と回答しており、この2カ国における進出日系企業の積極的な姿勢が垣間見える。有効回答数10社以上の国で比較した場合、コロンビアは進出日系企業調査の世界全対象国の中で最も「拡大」と答えた比率が高い国である。回答企業数30社以上の国のみで比較するとメキシコが第1位となり、中国、ASEAN、インドの全てを上回る。

(4)太平洋同盟とメルコスールで投資環境面のリスク認識に大きな差
今回の調査では、自由主義経済を標榜する太平洋岸4カ国(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)が加盟する太平洋同盟の進出日系企業と保護主義的な経済政策の採用が目立つメルコスール(本調査の対象はブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの3カ国)の進出日系企業の間で、投資環境面でのリスク認識の大きな差が浮き彫りとなった。税務や行政手続きの煩雑さ、人件費の高騰、インフラの未整備、政府の不透明な政策運営などほとんど全ての項目でメルコスール進出企業のリスク認識が太平洋同盟に比べて高くなっている。ただし、自由市場経済を標榜する太平洋同盟諸国では競争が激しいのも事実であり、販売・営業面における課題として「競合相手(コスト面で競合)の台頭」を挙げる企業の比率は、太平洋同盟(55.9%)がメルコスール(47.3%)を上回っている。

(5)メキシコの投資環境は比較的良好、ブラジルのビジネスには高いハードルが存在
進出日系企業の数が多いブラジルとメキシコにおける投資環境面のリスク(問題点)をASEANの主要新興国と比較すると、「税制・税務の煩雑さ」(66.7%)を除けばメキシコのビジネス環境はアジア新興国と比べても悪くはない。タイには及ばない点が多いが、インドネシアやベトナムと比較すると大きく劣後するところは少ない。逆に「人件費の高騰」については、アジアの主要新興国と比べると問題視する声が少なく、賃金の上昇圧力は依然として小さいことがわかる。
他方、ブラジルのビジネス環境は厳しいことがうかがえる。税制・税務の煩雑さ、行政手続きの煩雑さ、インフラの未整備、政府の不透明な政策運営、人件費の高騰、労働争議・訴訟などほぼ全ての点でASEAN主要国と比べると問題視する企業の比率が高くなっている。

(6)ブラジルで高い原材料・部品の現調率、メキシコは北米ワイドのサプライチェーンで調達
製造業の集積が大きいブラジルとメキシコで生産面の問題点をみると、「原材料・部品の現地調達の難しさ」を挙げる企業が多いのはメキシコであり、68.9%(42社)が問題視する。メキシコの現調率はアジアと比べるとかなり低いが、米国からの調達が多く、NAFTAを活用して北米ワイドで最適な調達先を選定しているものと思われる。近年は自動車産業を中心に日系サプライチェーンがTier2、Tier3レベルまで構築されつつあるため、中期的には現地調達が拡大するだろう。現地調達先に占める日系企業からの割合が高い(37.2%)のもメキシコの特長であり、今後はタイ(53.1%)やインドネシア(45.3%)の数値に近づいていくものと推測される。
他方、ブラジルでは「調達コストの上昇」を問題視する企業が多く、76.2%(48社)に達する。ブラジルは関税障壁などを高く設定して国内産業育成に努めてきたため、ある程度の裾野産業が存在する。しかし、「ブラジルコスト」が影響して現地調達部品の価格は高いが、政府の産業政策などにより一定の現調率の達成が求められる産業においては、割高な部品でも調達せざるを得ない。

(7)拡大する消費市場として注目されるコロンビア、厳しい環境が続くベネズエラとアルゼンチン
今回の調査では、コロンビア進出日系企業の業況感と事業拡大意欲の高さが際立った。コロンビアは中南米第3位の4,700万人の人口を有し、2010年以降は4%以上の経済成長率を維持し、世界銀行の最新のビジネス環境調査ではチリとペルーを抜いて中南米第1位に浮上している。また、日本との間で経済連携協定(EPA)を交渉中であり、2015年中の交渉妥結が期待されている。治安改善と中間層の拡大により、ブラジル、メキシコに次ぐ中南米第3の消費市場として注目される国である。
他方、ベネズエラとアルゼンチンでは厳しい経営環境が続いている。ベネズエラの業況感(DI値)は2012年以降マイナスが続いており、昨今の原油価格下落が同国の経済環境をさらに悪化させることが懸念される。アルゼンチンでも政府の不透明な保護主義的政策により、厳しい経営環境が続いているが、2015年10月には大統領選挙が予定されており、国際社会における同国の債務再編問題の決着に加え、新政権発足後の経済政策の改善に期待する企業が多い。

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[ジェトロ]
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