民間企業の研究活動に関する調査報告2015(研究開発を行っている資本金1億円以上の企業対象) 

2016年05月27日
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)では、「民間企業の研究活動に関する調査報告2015」を取りまとめました。

1968年度より本調査を実施しており、2015年度調査は、研究開発を行っている資本金1億円以上の企業を対象に2015年8月に実施しました。集計された企業は1,741社(回収率50.6%)でした。結果として、各企業の主要業種における社内研究開発費は1社当たり平均25億7,145万円となっており、今年度と昨年度の両方に回答した企業で比較すると、自己資金による社内研究開発投資は減少する一方、外部支出研究開発投資はほぼ横ばいとなっていること等が分かりました。

【調査結果の概要】

1.研究開発投資の動向

・主要業種の社内研究開発費は前年度に比べて減少傾向がみられる。
研究開発活動の実施状況をみると、企業の主要業種における社内研究開発費は 1 社当たり平均 25 億 7,145 万円(うち外部からの受入研究費が 1 社当たり 7,896 万円)、外部支出研究開発費(総額)が 14 億 4,086 万円であった(表 1)。なお、研究開発費(全社)に占める研究開発費(主要業種)の割合の平均は、社内研究開発費が 92.2%、外部支出研究開発費が 89.1%であった。今年度と昨年度の両方に回答した企業で時系列比較すると、主要業種における 1 社当たりの平均社内研究開発費(受入研究費を除く自己資金分)は減少している(表 2)。

・2012 年度、2013 年度と増加傾向にあった主要業種における社内研究開発費は、2014 年度は減少に転じた。主要業種における外部支出研究開発費はほぼ横ばいであるが、わずかに減少。
主要業種における社内研究開発費及び外部支出研究開発費の前年度からの増加率について、2008 年度から 2014 年度までの推移を時系列でみたものが図 11である。増加率の符号がプラスの場合は前年度に比べ増加、マイナスの場合は前年度に比べ減少していることを示している。
2008 年 10 月に発生したリーマンショックと 2011 年 3 月に発生した東日本大震災を受けて、主要業種における社内研究開発費(自己資金)は 2009 年度、2011 年度ともに減少したことがわかる。一方、主要業種における外部支出研究開発費は2009年度には減少しているが、その後は2011年度も含め増加している。つまり、リーマンショック発生時には主要業種における研究開発は社内・社外を問わず縮小した可能性があり、東日本大震災発生時には、主要業種において研究開発の外部化が加速した可能性を指摘することができる。
しかし、2014 年度には、主要業種における社内研究開発費は減少に転じ、外部支出研究開発費はほぼ横ばいであるが、わずかに減少している。実質 GDP の変動でみた 2014 年の日本の経済成長率2もマイナス1.0%と、2011 年の東日本大震災以来のマイナス成長となっており、2014 年 4 月の消費増税や 2014 年 6 月末から2015年1月末にかけてのエネルギー価格の急落等の影響を受け、企業の主要業種における売上高や利益が減少した可能性が考えられる。

・企業の主要業種における社内での自己資金による研究開発は縮小され、相対的に研究開発の外部化の比率が増加している可能性が指摘できる。
主要業種における社内研究開発費(実質値・自己資金分)と、研究開発活動の外部化の程度を示す外部支出研究開発費とその比率、そして研究開発集約度を示す研究開発費対売上高とその比率について、2011 年度から 2014年度までの変化を時系列にプロットしたものが図2 である。ここでの社内研究開発費は外部からの受入研究費を含めておらず、社内研究開発費のうち自己資金の金額を示している。
2011 年度以降の主要業種における社内研究開発費(実質値・自己資金分)は増加傾向にあったが、2014 年度には減少に転じている。また、研究開発活動の外部化の程度(研究開発費に占める外部支出研究開発費比率)をみると、2012 年度には低下したが、翌 2013 年度は増加し、2014 年度においても増加していることがわかる。つまり、企業の主要業種における研究開発活動を考えたとき、社内での自己資金による研究開発は縮小され、相対的に研究開発の外部化の比率が増加している可能性を指摘できる。
研究開発費対売上高比率(研究開発集約度)は、2011年度から2013年度にかけては増加傾向にあったが、2013 年度から 2014 年度にかけては減少に転じている。なお、主要業種における売上高の 1 社あたりの平均も 2013 年度から 2014 年度にかけては減少している。

2.研究開発者の雇用状況

・1 社当たりの研究開発者数は平均 121.1 人。
研究開発活動における重要な投入資源のひとつである研究開発者の数は平均値でみると 121.1 人であった(表 3)。研究開発者の年齢は、25 歳以上 34 歳以下及び 35 歳以上 44 歳以下の割合が高い(表 4)。研究開発者のうち、各企業の研究開発者のカテゴリー別内訳比率を平均した値(平均値 B)では、主要業種に係わる研究開発者数は 116.1 人、外国籍研究開発者は 1.3 人である(表 5)。

・58.2%の企業は研究開発者を 1 人も採用していない。
今年度調査での研究開発者の採用状況について、研究開発者を 1 人以上採用した企業は回答企業全体の 41.8%であり、58.2%の企業は研究開発者を 1 人も採用していなかった。博士課程修了者については回答企業全体の約 9 割、女性研究開発者については回答企業全体の約 8 割の企業が 1 人も採用していない。ただし、研究開発者を 1 人以上採用した企業(471 社)に限定してみてみると、そのうち 25.0%の企業が博士課程修了者を採用し、48.8%の企業が女性研究者を採用していることがわかる(それぞれ、118 社/471 社、230社/471 社)。ポストドクターについては 1 人以上採用している企業の割合は全体の 1.5%であった(表 6)。

・新卒の研究開発者を採用している企業の割合は経年的なトレンドでは減少傾向にあるが、2014年度には増加に転じている。
研究開発者(新卒)を採用した企業割合の推移をみると、傾きにばらつきがあるものの、全体として 2013 年度までは減少傾向にあり、新卒者を研究開発者として採用する企業の割合が減っていることがわかる。なかでも、2010 年度から 2011 年度にかけての減少割合が相対的に大きく、2010 年度末の東日本大震災の発生を受けて、企業が新卒採用をより手控えた可能性も考えられる。しかし、2014 年度では研究開発者(新卒)を採用した企業の割合が増加に転じている。学歴別に見ても、2013 年度から 2014 年度にかけて、新卒の学士号取得者、修士号取得者、博士課程修了者のすべての区分で採用した企業の割合が増加している。
一方中途で研究開発者を採用した企業割合の推移についてみてみると、2010 年度から 2011 年度にかけての増加割合が相対的に大きく、この点で研究開発者(新卒)を採用した企業割合の推移と対照的である。中途で研究開発者を採用した企業割合は 2011 年度以降 2013 年度までゆるやかに減少していたが、2014 年度では、研究開発者(新卒)を採用した企業割合と同様に増加に転じている。ポストドクター経験者に限ってみても、2013 年度から 2014 年度にかけて採用した企業の割合に増加傾向が確認できる(図 3)。

・採用された研究開発者に占める中途採用者の割合は経年的なトレンドでは増加傾向にある。
・新卒採用者の学歴・属性別の割合を見ると、2014 年度にかけて、学士号取得者(新卒)の割合及びポストドクター経験者の割合は増加し、修士号取得者(新卒)及び博士課程修了者(新卒)の割合、女性研究開発者(新卒)の割合は減少した。

採用された研究開発者に関する学歴及び属性別の採用者数割合の推移について、ここ数年の傾向をみると、経年的なトレンドでは採用された研究開発者に占める中途採用の割合が増加傾向にあることがわかる。
採用された研究開発者の学歴別にみてみると、学士号取得者(新卒)、修士号取得者(新卒)の割合はともに経年的なトレンドでは減少傾向にあるが、2013 年度から 2014 年度にかけて学士号取得者(新卒)の割合は増加に転じているのに対し、修士号取得者(新卒)の割合は大きく減少しているという違いが確認できる。
博士課程修了者(新卒)の占める割合は、2012 年度までは増加傾向にあったが、それ以降は減少に転じ、2013 年度から 2014 年度にかけても減少している。ポストドクター経験者の占める割合は経年的なトレンドでみると増減が繰り返されていることがわかるが、2013 年度から 2014 年度にかけては増加傾向にある。
女性研究開発者(新卒)の割合についてみると、2011年度から2013年度にかけては増加傾向にあったが、2014 年度にかけてはわずかに減少していることがわかる(図 4)。

3.知的財産活動への取り組み

・1 社当たりの国内特許出願件数は約 85 件。
研究開発活動を実施している企業のうち 78.0%の企業が知的財産活動を実施していた。
研究開発のアウトプットのひとつである特許出願件数について、平均値をみたところ、国内特許出願件数が85.1 件(昨年度調査では 90.1 件)、国際特許出願件数が 18.8 件(同 21.7 件)、外国特許出願件数が 78.4件(同78.9件)(うち米国特許庁への出願が23.1件(同24.2件)、うち中国特許庁への出願件数が17.6件(同16.8 件))、国内特許所有数が 500.0 件(同 557.6 件)、自社実施件数が 132.5 件(同 137.0 件)であった。

・国内特許出願件数の増減の主な要因は、発明自体の増減である。
特許出願が減少したと答えた企業、増加したと答えた企業のそれぞれに、その理由を尋ねた(図 5、図 6)。
減少の理由で最も多いのが「発明の減少」(63.3%)であり、増加の理由で最も多いのが「発明の増加」(73.9%)である。このことから、企業における特許出願の増加及び減少は、生みだされる発明の量は以前と同じであるが何らかの理由で出願行動が変化したことを反映しているのではなく、生み出される発明の量自体の変化を反映したものであることがわかる。
特許出願減少の理由として、「特に理由は無い」を除いて、「発明の減少」に続いて多いものを順に 4 つ挙げると、「特許出願の意思決定における評価基準の厳格化」(18.8%)、「研究者数の減少」(8.1%)、「研究開発費の減少」(7.0%)、「知的財産活動費の減少」(6.6%)である。「研究者数の減少」、「研究開発費の減少」、「知的財産活動費の減少」という一見して特許出願数の減少に直結しそうな要因よりも、「特許出願の意思決定における評価基準の厳格化」の割合が上回っている。これは、厳しく取捨選択して特許出願する企業が増えていることの証左であろう。
特許出願増加の理由として、「発明の増加」に続いて多いものを順に 4 つ挙げると、「既存の事業領域における特許の重要性増大」(26.1%)、「新たな事業領域へのシフト」(18.5%)、「研究開発費の増加」(13.9%)、「知的財産活動費の増加」(12.5%)である。「研究開発費の増加」、「知的財産活動費の増加」という一見して特許出願数の増加に直結しそうな要因よりも、「既存の事業領域における特許の重要性増大」や「新たな事業領域へのシフト」の割合が上回っている。このことから、①従来はさほど特許が重視されていなかったが近年は特許が重要な要素になってきた事業領域が一定数存在すること、②特許がさほど重要でない事業領域から特許が重要性を持つ事業領域にシフトしている企業が一定数存在すること、が示唆される。

・競合他社が迂回発明を特許出願するまでの期間は平均で 34.9 か月(3 年弱)であり、製造業では医薬品製造業で最も長い(55.6 か月)。
研究開発のアウトプットとしての特許は単に量的側面だけでなく、質的側面からも捕捉する必要がある。ただし、特許の質を直接に測定することは難しいため、本年度調査では特許の有効性を示す指標のひとつとして、特許出願の排他性の効果を測るために、主要業種において、競合他社が代替的な技術を迂回発明し、特許出願するまでの期間を尋ねている。
競合他社が迂回発明を特許出願するまでの期間については、全体平均で 34.9 か月である。したがって、特許出願した技術が独占権を発揮し続けられる期間は 3 年弱ということになる。この期間は特許権の有効期間20 年と比較してかなり短い。すなわち、1つの特許で技術を独占し続けることが非常に難しいことがわかる。また、資本金階級が小さい企業ほど競合他社が迂回発明を特許出願するまでの期間が長いという傾向がみられる。つまり、小規模な企業ほど、排他性の高い特許を厳選して出願、所有しているものと考えられる。(表 7)。
業種別にみると、迂回発明が特許出願されるまでの期間は、医薬品製造業(55.6 か月)で最も長くなっている。医薬品製造業については、2011 年度から 2014 年度の調査でも特許の排他期間が長いことが確認されている。したがって、医薬品製造業では、特許権の排他性が非常に強く、技術の寿命が長いことが推測される。

・少なくとも 30%以上の企業は、営業秘密に該当しない企業秘密を保有している。
研究開発活動の結果として生み出される技術的知識のひとつであるノウハウ等の企業秘密は、特許のように権利化され制度的に保護されるものではないため、常に流出のリスクを持っている。本調査では、2014 年度に回答企業によって生み出された、権利出願の対象となりうる全ての技術的知識・情報のうち、企業秘密(営業秘密を含む)として管理されているもの、営業秘密として管理されているものの比率を調査している。
表9は、企業秘密の割合の回答と、営業秘密の割合の回答をクロスさせた結果である。企業秘密を保有していない企業の割合は、全体の 18.0%である。企業秘密の大部分を営業秘密として保有している企業(企業秘密として管理しているものの割合が 0%ではなく、技術的知識・情報のうち企業秘密としたものの割合の階級と、営業秘密としたものの割合の階級が、同一である企業)の割合は、全体の 50.2%となり、約半数となっている。
これらの 18.0%と 50.2%の企業を除いた残りの 31.8%の企業は、営業秘密ではない企業秘密を保有していることが確実である。すなわち、回答企業のうち、少なくとも約 30%は、不正競争防止法による営業秘密の保護だけでは対応しきれない企業秘密を保有していることがわかる。なお、企業秘密の割合の階級と営業秘密の割合の階級が同一である企業のなかにも、実際には、両者の割合に差がある場合があり得るため、この割合は更に大きい可能性がある。

4.主要業種におけるイノベーション創出

・41.3%の企業が画期的な新製品・サービスを実現し、25.6%の企業が画期的な新工程を実現した。
2015 年度調査では、主要業種における、過去 3 年間(2012 年度~2014 年度)の下記 7 つの研究開発成果の実現状況を尋ねた。
①新しいまたは大幅に改善した製品・サービスの投入(画期的な新製品・サービスの投入)を実現した企業の割合は41.3%(昨年度調査では44.9%)、②製品の生産・供給のオペレーションにおいて新しい手法の導入あるいは既存の手法の大幅な改善(画期的な新工程の実現)を行った企業の割合は25.6%(同26.8%)であった。③新しいまたは大幅に改善したビジネスモデルの導入は 18.0%(同 19.9%)の企業が、④新しいまたは大幅に改善したマーケティング手法の導入は 18.6%(同 19.8%)の企業が、⑤新しいまたは大幅に改善した組織マネジメント手法の導入は 27.0%(同 27.0%)の企業が、実現したと回答した。⑥新しさや大幅な改善はないが既存技術の軽度な改善改良による新製品・サービスの投入を実現した企業の割合は 84.8%(同 87.2%)、⑦製品の生産・供給のオペレーションにおいて新しさや大幅な改善はないが既存のものを軽度に改善改良した手法を導入した企業の割合は 69.2%(同 73.3%)であった。
同業他社に対する競争優位を保つために最も重視している事項として、74.0%の企業が、製品・サービス自体の技術的特徴や機能特性を挙げた。これは、競争優位を保つために考慮する事項として当然の帰結であるが、次いで多くの企業が挙げたのは、収益性向上を目的とした事業戦略(11.9%)であった。企業が主力製品・サービス市場で競争優位を保つために、新たなビジネスモデルの構築に係る事業戦略が重要であることがみてとれる。

・最も優先的に活用している利益確保の手段は、特許・実用新案による保護である。
過去 3 年間に新製品・サービスの利益を確保する上で最も優先的に活用してきた事項を尋ねたところ、特許・実用新案による保護を最も重視している企業の割合が 24.0%と最も大きかった。次いで、製品・サービスの先行的な市場投入(リードタイム)を最も重視している企業が 20.7%、企業秘密化・秘密保持契約の締結を最も重視している企業が 14.2%、企業及び製品・サービスのブランド力の構築・活用を最も重視している企業が13.3%であった。また、1 番目から 5 番目までに重視するものとして選択された割合の合計値が高い項目は、「特許、実用新案による保護」(65.7%)、「企業秘密化、秘密保持契約の締結」(65.4%)、「企業及び製品・サービスのブランド力の構築、活用」(61.8%)であり、いずれも 60%を超える結果となった。
現時点の市場における競争状態の下で、自社の研究開発成果として生み出された新製品・サービスから生じる利益をできるだけ自社のみで確保できるようにする、すなわちイノベーションの専有可能性を高めるための手段として、特許権による保護が最も重視されていることが確認できる結果である。

5.他組織との連携・外部知識等の活用

・71.5%の企業が、主要業種の研究開発において他組織との連携を実施している。
過去 3 年間(2012 年度~2014 年度)に、主要業種の研究開発において他組織との連携を実施したことがある企業の割合は、71.5%である。また、外部から知識を導入する際に企業が活用している情報源としては、学会での研究成果発表、該当組織のニュースリリース、展示会、論文の順になっており、企業が“情報の速報性”を重視している可能性が指摘できる。
学会での研究成果発表や論文という学術的な成果に近い情報源については、規模が大きい企業ほど重視すると答える企業の割合が高い。一方、展示会や該当組織のニュースリリースという市場に出る製品・サービスに近い情報源については、規模が小さい企業ほど重視すると答える企業の割合が高い。規模が大きい企業ほど、長期的な視野で外部から知識を導入する傾向があるのに対し、規模が小さい企業ほど、直接自社の製品・サービスの開発に結びつく知識を外部から導入する傾向があることを反映していると考えられる。

・情報交換や共同研究、製品購入といった形での連携が多い。
国内の企業を中小企業とその他企業に区分した上で、どのような形で連携したことがあるかをたずねたところ、中小企業及び大企業のいずれに関しても、「秘密保持契約を結んで情報交換を行った」、「共同研究契約を結んだ」、「相手先の製品を購入した」といった形での連携を行っていることが分かった。
また、「秘密保持契約を結んで情報交換を行った」、「共同研究契約を結んだ」、「自社特許権の実施許諾を行った」、「相手の特許権の実施許諾を受けた」という、未公開の情報や排他性のある情報のやり取りを含む連携形態については、中小企業との間で経験があると答えた企業の割合よりも、それ以外の企業との間で経験があると答えた企業の割合の方が高かった。

・連携先としての中小企業における問題点として最も多くの企業が挙げたのは、実用化につながる研究成果が少ないことである。大企業における問題点は、契約が円滑に結べないことである。
国内の中小企業及びそれ以外の企業との間で連携を行った経験を踏まえて、連携相手先企業において問
題だと考える点を尋ねた結果を、中小企業とそれ以外の企業、それぞれについて回答した企業を対象にまとめたものが、図 8 である。
中小企業、それ以外の企業のいずれにおいても、多くの企業が、「問題はない」と感じていることがわかる。
具体的な問題点としては、中小企業との連携においては「実用化につながる研究成果が少ないこと(24.3%)」、「研究成果についての情報発信が少ないこと(14.8%)」、「研究のスピードが遅いこと(13.3%)」が問題だと考えていることがわかる。それ以外の企業(大企業)との連携に関しては、「契約が円滑に結べないこと(26.2%)」、「意思決定のスピードが遅いこと(17.6%)」、「実用化につながる研究成果が少ないこと(17.0%)」を問題点として挙げた企業が多い。
回答企業の割合の大小にかかわらず、回答割合の比を取ることにより、中小企業と比べて大企業で顕著な事項を抽出すると、「共同研究の成果を特許にする場合の条件」、「意思決定のスピードが遅いこと」、「契約が円滑に結べないこと」、「特許・企業秘密等の使用許諾を受ける際に条件が厳しすぎること」、「共同研究をしても自社側の意見が取り入れられないこと」が挙げられる。他方、大企業と比べて中小企業で顕著な事項は、「実用化につながる研究成果が少ないこと」、「研究成果についての情報発信が少ないこと」、「自社の技術情報を他者に漏らされてしまうこと」、「特許の質が低いこと」が挙げられる。
中小企業は研究成果の取扱い等についてフレキシブルに対応できるが、秘密情報の管理体制が確立されておらず、自社情報の発信が少ない。一方、大企業においては社内決済をとるのに時間がかかることが想定され、契約手続や意思決定のスピードに難がある。こうした現状を反映した調査結果となっている。

・企業に必須な知識を多く提供している相手先は、顧客企業・設備や素材・部品等の供給業者、国内の大学等・公的研究機関である。
主要業種において過去 3 年間(2012 年度~2014 年度)に市場投入した新製品・サービスや、新たに開始した製品の生産・供給のオペレーションに関して、知識の導入が必須だった相手先を尋ねた結果をまとめたものが図 9 である。
ここでの知識とは、共同研究開発、ライセンス導入等だけでなく、論文の参照、学会・研究会等における研究成果の参照、研究者同士のコミュニケーションから得た情報等も含まれる。
選んだ企業の割合が最も多かったのは、顧客企業(61.6%)であり、次いで、設備や素材・部品等の供給業者(51.5%)、国内の大学等・公的研究機関(49.4%)である。国内の大学・公的研究機関は企業の知識導入の相手先として一定の機能を有していることがわかる。

6.科学技術に関する政府の施策・制度の利用状況

・半数超(51.3%)の企業が、研究開発費に関する政府の科学技術関連施策を利用している。
政府の科学技術イノベーション政策においては、大学や公的研究機関だけでなく、民間企業を直接的な対象とした施策・制度が講じられている。そのような政策の効果や影響を把握するためには、民間企業側に調査することが有益である。
そうした状況を受けて、2015 年度調査では、科学技術に関する政府の施策・制度について、民間企業による利用状況を把握するための設問を設け、該当する設問に回答した企業(1348 社)を対象として集計した。調査対象とした政府の施策は、a)試験研究費の総額にかかる税額控除制度、b)研究開発に対する補助金等の支援制度、c)研究開発に関する政府調達、の 3 種類である。
これらの施策を利用していないと回答した企業の割合は 48.7%であり、約半数超の企業が政府の科学技術に関する施策を利用したことがわかる。
また、いずれの施策とも、企業規模が大きい資本金 100 億円以上の企業における利用割合が最も高くなっている。特に、「試験研究費の総額にかかる税額控除制度」と「研究開発に対する補助金等の支援制度」については、資本金 100 億円以上の企業のおよそ半数が利用していることわかる。一方、「研究開発に関する政府調達」については、資本金 100 億円以上の企業の利用割合が相対的に大きいものの、その割合は 5.2%と小さく、利用している企業は一部であることがわかる(表 10)。

・22.9%の企業が政府の競争的資金を獲得している。
民間企業を直接的な対象とした政府の競争的資金の獲得・応募状況について尋ねたところ、表 12 に示した実施機関のいずれかの競争的資金を獲得したと回答した企業の割合は 22.9%であった。また、いずれかの競争的資金に応募したが、獲得しなかったと回答した企業は 5.8%となっており、調査対象企業の 3 割弱がいずれかの競争的資金に応募したと回答している。資本金階級が 100 億円以上の大企業に着目すると、いずれかの競争的資金を獲得したと回答した企業の割合は 47.2%と半数近くに達している(表 11)。
競争的資金の実施機関別にみると、獲得したと回答した企業の割合については、新エネルギー・産業技術総合開発機構(10.9%)が最も高く、経済産業省(9.6%)、科学技術振興機構(6.1%)が続いている(表 12)。

詳しいリサーチ内容はネタ元へ
[科学技術・学術政策研究所]
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