生命保険領域における国内InsurTech(インシュアテック)市場調査 

2018年08月27日

矢野経済研究所は、生命保険領域における国内InsurTech(インシュアテック)市場を調査し、現況、領域別の動向、および将来展望を明らかにした。

<InsurTech(インシュアテック)市場とは>
InsurTech(インシュアテック)とは保険(Insurance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語である。従来の生命保険会社では提供できなかった新たな保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化などにおいてIT技術を活用して提供する生命保険関連サービスを意味する。
本調査におけるInsurTechは次のように分類し、「個人ごとの(健康増進型)保険商品の開発」「疾病管理プログラム」「AIやチャットボットなどを活用した保険見直しコンサルティングや保険相談サービス」「AIを活用したアンダーライティング(引受査定)の自動化」「受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング」「アプリなどによる契約者および契約者の家族向けアフターサービス」「AIやBRMS(ビジネスルール管理システム)などを活用した支払査定の自動化」「インフラとしてのブロックチェーン※の活用」の8領域を対象とする。(※ブロックチェーンとは利用者同士をつなぐ P2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引 などを記録、認証するしくみ)
国内InsurTech市場規模は従来の生命保険会社が提供していなかった新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするベンダーやベンチャー企業に焦点を当て、当該参入事業者の売上高ベースで算出している。

<市場に含まれる商品・サービス>
「個人ごとの(健康増進型)保険商品」「疾病管理プログラム」「AIやチャットボットなどを活用した保険見直しコンサルティングや保険相談サービス」「AIを活用したアンダーライティング(引受)」「受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング」「アプリなどによる契約者および契約者の家族向けアフターサービス」「AIやBRMS(ビジネスルール管理システム)などを活用した支払査定の自動化」「インフラとしてのブロックチェーン」

1.市場概況

2018年度の国内InsurTech(インシュアテック)市場規模(参入事業者売上高ベース)は、690億円の見込みである。特にAI(人工知能)などを活用した業務の効率化・高度化ソリューションが市場をけん引したほか、従来にはない生命保険会社による健康増進型保険※1や疾病管理プログラム※2の開発に向けたデータ収集などが進んでいる。

法整備については、保険業法等の改正の動きはなく、また管轄官庁における新たな動きも見られないことから、FinTech と比較すると限定的な状況にあるものと考える。一方で、官民データ活用推進基本法(2016年12月成立)には医療系データのオープン化が掲げられているほか、プロジェクト型の「規制のサンドボックス(砂場)※3」は、AIやブロックチェーン※4などを対象としていることから、自治体を中心にサンドボックス制度を活用したInsurTechに係る実証実験が進むことが期待される。

支援環境については、2017年後半から生命保険会社やシステムベンダー主催のイベントに留まらず、複数の支援機関による関連イベントなどが登場しているが、FinTech と比較するとまだ少ないのが実情である。今後の積極的な支援環境の構築、拡大を期待する。

技術的な環境整備においては、まずAPI(Application Programming Interface)の公開に向けた議論が進むことが期待される。生命保険会社のシステムは大手事業者ほど複雑化しており、APIの公開にはある程度の投資額と時間を要することが想定されるが、銀行API の公開が加速するなか、生命保険にAPI 化の流れが来ないとは考えにくい。API を通じて生命保険会社は多彩な事業者との連携や、顧客との接点の拡充が可能になることから、早急に検討を開始する必要があるものと考える。

2.注目トピック

健康増進型保険や疾病管理プログラムの開発が活発化、保険を軸としたエコシステムも登場
現下、国内の大手生命保険会社を中心に、健康診断データやライフログデータなどの収集を通じて、健康増進型保険の開発が進められている。また、外資系の生命保険会社を中心に手掛けている、疾病管理プログラムの充実に向けて、スマートフォンアプリや重症化予防プログラム※5などを含めたサービス開発を今後、更に加速させていくとみる。加えて、一部で保険を軸としたエコシステム(様々な周辺企業と協業して構築するある種の経済圏)が登場してきており、今後の動きに注目していく必要がある。

​また、データという観点では中央省庁や自治体の保有する公共データのオープン化(オープンデータ)などの活用も引き続き進むことが期待される。

3.将来展望

国内InsurTech(インシュアテック)市場規模(参入事業者売上高ベース)は、2021年度には1,790億円に達すると予測する。​

保険の支払い業務やアンダーライティング(引受査定)などの効率化・高度化を目的としてAIやRPA(Robotic Process Automation)の導入が進んでいるほか、健康増進に向けた取組みや重症化予防など、未病から予後の重症化予防においてITを活用したさまざまな取組みが急速に進んでいる。また、健康増進型の保険などを軸とした健康関連のエコシステムが複数登場しており、今後、生命保険領域における国内InsurTech(インシュアテック)市場は拡大していくものとみる。

※1. 健康増進型保険とは、従来の実年齢によって保険料が決定する手法とは異なり、健康診断結果やライフログデータを基に、保険加入者の健康状態や健康増進に向けた取組み度合いに応じて、保険料が変動する保険商品
※2. 疾病管理プログラムとは、啓蒙活動から実際の行動変容、そして異常が見つかった際の最適な医療アクセスの提供、そして給付金の支払いまで一貫してサポートしていく取組み
※3. サンドボックスとは、革新的な事業やサービスを育成する上で、現行法の規制を一時的に停止する仕組みで、 所管官庁に届け出て、相談の上、試験的に事業を進める手法
※4. ブロックチェーンとは利用者同士をつなぐ P2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引 などを記録、認証するしくみ
※5. 重症化予防プログラムとは脳梗塞や心筋梗塞など再発率の高い疾患に罹患した際、手術等で一旦治癒、回復後の2回目以降の再発予防に向けたプログラムをさす

調査概要


調査期間: 2018年5月~7月
調査対象: 国内の生命保険会社、少額短期保険事業者、SIer、InsurTechベンチャー企業等
調査方法: 当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用

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[矢野経済研究所]
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