2018年度 米国進出日系企業実態調査 

2019年02月06日

ジェトロは、2018年11月9日から12月7日まで、米国に進出している日系企業に対し、経営実態に関するアンケート調査を実施しました。その結果を以下の通り発表します。
※製造業の生産会社と販売会社を対象としています。

調査結果のポイント


企業業績
営業黒字を見込む企業は7年連続の7割超(74.5%)で、調査史上最長を更新。景況感を示すDI値(2018年)は、前年比9.3ポイント増の17.2、2019年の見通しも32.0と高く、業績改善を見込む企業が多い。
今後の事業展開
過去1年間に現地従業員を「増加」した企業は40.9%と7年連続で4割超を記録し、今後についても44%が増加をみこむ。今後1~2年で事業拡大を視野に入れる企業(54.2%)も、7年連続での5割超となった。
サプライチェーン(原材料の調達先及び製品の生産体制及び販売先)
通商環境の変化によって調達先の見直しの動きはあるものの、NAFTA地域を中心とする地産地消のトレンドに変化はない。
経営上の課題
経営上の課題(コスト上昇要因)として前年同様、「労働者の確保」(69.0%)、「賃金上昇」(65.6%)、「労働者の定着率」(46.3%)が上位を占め、「貿易制限措置の影響」(44.7%)を上回った。人材難に改善の兆しは見えない。
変化するビジネス環境への対応
政策別では、「通商」(81.3%)が最も高く、特に、「追加関税」、「米国・カナダ・メキシコ協定(USMCA)」、「日米貿易交渉」が挙がった。

(注1)調査結果の構成比は、小数点第2位を四捨五入しているため、必ずしも合計は100とはならない。
(注2)回答比率は、各設問の回答者数を基数として算出した。

調査結果概要


(1)営業利益見込み:
黒字を見込む企業は74.5%。7年連続の7割超と高水準で、調査史上最長を更新
  • 米国進出日系企業の営業利益は、2018年は回答企業の74.5%が黒字を見込む。前年(74.4%)より微増し、好調さを維持。黒字を見込む企業は、2012年度調査以来、7年連続で7割を超えた。窯業・土石(100%)や輸送用機器(自動車・二輪車(91.7%)、医薬品(87.5%)で黒字比率が高い一方、輸送用機器部品(自動車・二輪車)の黒字比率は2年連続で低下(82.5→70.4→64.8%)し、中西部の黒字比率の3.1ポイント低下にも寄与した。事業別では、「販売のみ」の黒字比率(79.6%)が「生産・販売」(73.6%)を6.0ポイント上回った(資料4頁)。
  • 景況感を示すDI値(前期と比較した営業利益の「改善」-「悪化」)は17.2となり、前年から9.3ポイント改善した。2018年の営業利益見込みが「改善する」と回答した割合(41.5%)は前年から3.7ポイント増加し、「悪化する」との回答(24.3%)は5.6ポイント減少した。2019年の営業利益の「改善」を見込む企業は半数近く(45.1%)で、DI値も32.0ポイントと大きく上向くなど、業績改善を見込む企業が多い(資料5頁)。
  • 業種別(2018年)では、はん用・生産用機器(36.8)や金属製品(33.4)の値が高かった一方、輸送用機器部品は、自動車・二輪車が-9.9ポイント、鉄道車両・船舶・航空・運搬車両は-9.1ポイントとマイナスだった(資料6頁)。
(2)今後の事業展開:
事業拡大を視野に入れる回答企業は54.2%。現地従業員は7年連続で4割超。
  • 今後1~2年の事業拡大を視野に入れる回答企業は、54.2%と前回から2.9ポイント減少したが、7年連続での5割超となった。拡大する機能として、前回に続き販売(63.9%)、生産(高付加価値品)(45.1%)が主に挙がった。業種別では、化学品・石油製品(78.1%)や食品・農水産加工(72.2%)などにおいて「拡大」する率が高かった。一方、事業を縮小と答えた企業は4.2%にとどまった(資料7~8頁)。
  • 2018年の設備投資は、金額ベースで前年を上回る企業が43.7%で、前回から3.1ポイント増加した。「前年比横ばい」は47.6%(1.8ポイント減)で最も多く、前年を下回る企業は8.7%(1.0ポイント減)にとどまった。設備投資の目的は、「既存設備の維持・補修」(54.0%)や「増産・販売力増強」(41.9%)、「新規事業の開始、新製品の生産、製品の高度化」(31.5%)が上位を占めた(資料9~10頁)。
  • ICT分野の活用状況では、スマートフォーンやタブレット端末の導入している企業が71.7%で最多で、クラウドサービスが50.9%で続いた。IoT/M2Mソリューションや人口知能(AI)は、活用していると回答した割合は10%に満たないが、将来的に活用を検討しているという回答は30%を超えており、今後拡大が期待される分野となった(資料11頁)。
  • 過去1年間に現地従業員を「増加」と回答した企業は40.9%に達し、7年連続で4割を超えた。今後も44.0%の企業が「増加」を見込む。日本人駐在員数はいずれも「横ばい」との回答が最多だった(資料12~13頁)。
(3)サプライチェーン(調達、生産、販売):
NAFTA地域を中心とする地産地消のトレンド
  • 米国で生産活動を行う企業の原材料・部品の調達については、米国内からの調達比率は58.1%(現地日系企業17.9%、地場企業38.9%、その他外資企業1.3%)となり、次いで日本(25.6%)からの比率が高かった。今後調達を拡大する先としては、前回に続き、米国内の地場企業(107社)や日系企業(52社)からの調達を拡大する方針がみられる。また、中国からの調達を減少する企業が、前回の10.6%から37.5%と大幅に増える一方、代わってASEANが8.4ポイント増加した(資料14頁)。一方、米国で販売活動のみを行う企業の米国内からの調達率は前回から4.0ポイント減の17.2%で、日本からの調達率は2.5%増の55.7%を占めた。今後の方針としては、日本(23社)やASEAN(22社)からの調達を拡大する傾向がみられた(資料15頁)。
  • 米国向け製品の生産地について、米国の割合は前回から1.8ポイント減(74.5%)となり、日本の割合は1.1ポイント増(13.5%)となった。今後米国向けの生産を拡大する国としては米国が113社で最も多く、メキシコは28社で、前回(29社)並みとなった(資料16頁)。
  • 米国で生産活動を行う企業の販売先は、米国内が79.7%で、メキシコとカナダを加えたNAFTA市場向けが86.9%、日本が5.2%を占めた。今後、販売を拡大する先としては、米国が130社(35.9%)、メキシコが54社(29.2%)で、メキシコは前回(38.3%)よりも拡大が9.1ポイント減少した(資料17頁)。また、米国で販売活動のみを行う企業の販売先としては、米国内が75.4%、米国を含めたNAFTA市場向けが84.2%、日本が5.8%を占めた(資料18頁)。
(4)コスト上昇/販売抑制要因:
「労働者の確保」、「賃金の上昇」、「価格競争の激化」などが引き続き課題
  • コスト上昇要因は前回同様、「労働者の確保」(69.0%)、「賃金上昇」(65.6%)、「労働者の定着率」(46.3%)が上位を占め、貿易制限措置により、「関税引き上げがコスト上昇となる」(44.7%)が続いた。規制面では、「環境規制」、「日本人駐在員のビザ」が前回に引き続き課題の上位に挙がった(資料19~20頁)。
  • 販売抑制要因については、「価格競争の激化」(76.0%)や「有力な競合製品の存在」(55.9%)が例年同様、上位に挙がった(資料21頁)。
(5)NAFTA再交渉による影響と対策:
「影響はない」「何も変更しない」割合がそれぞれ過半数を占める。
  • NAFTAに代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の総合的な影響について、「影響はない」と回答した割合は半数を超え(51.4%)、「分からない」が35.0%で続いた。「マイナスの影響」があると回答した割合は6.3%にとどまったものの、輸送用機器・部品(自動車・二輪車)では14.8%と、他業種と比べて高かった。同業種のマイナスの影響を項目別にみると、「賃金条項への対応」(21.3%)、「鉄鋼・アルミの域内調達義務」(18.4%)、「品目別原産地規則の見直し」(17.9%)の順に高かった(資料22頁)。
  • USMCAへの対策は、「何も変更しない」が56.4%、「分からない」が28.4%となり、対応はこれから、という企業が大半を占めた。具体的な対策を講じる中では、「販売価格の引き上げ」(11.0%)が最も多く、「調達先の変更」(3.7%)、「生産拠点の変更」(2.5%)が続いた。輸送用機器・部品(自動車・二輪車)においても「何も変更しない」(42.3%)が最多だった(資料23頁)。
(6)トランプ政権の政策に対する関心:
「通商」が81.3%で最も高く、うち「追加関税」、「USMCA」、「日米貿易交渉」が上位。
  • 日系企業の経営に影響を与えるトランプ政権の政策として「通商」(81.3%)が最も高く、前回(76.5%)より増加した。通商の中では、「追加関税」(73.9%)への関心が最も高く、USMCA、日米貿易交渉が続いた。「外交」(66.3%)では、米日関係、米中関係に対する関心がそれぞれ前年比で57.9%→74.3%、28.7%→68.3%と大きく伸びた。一方、「社会福祉」(41.8%)に対する関心が、前回(62.5%)から大きく減少した(資料24~25頁)。
  • 税制改革法案全般について「プラスの影響」と回答した企業が4割を超え、税別では連邦法人税の減税によるプラスの影響(60.8%)が最多だった。進出企業への影響が懸念された税源浸食防止規定(BEAT課税)による影響はないとする企業が55.4%と最多だったが、分からないとする企業も4割に上った(資料26頁)。
(7)市場拡大を期待する産業・地域:
ICTへの期待が最多。約8割の企業が南部に注目。
  • 今後2~3年で拡大を期待する産業分野として、情報通信技術(ICT)を選択した企業が最多で、医療、環境が続いた。前回(2016年)実施に比べて、ICTが20ポイントの大幅増となる一方、1位から10位まで順位に変動は見られなかった(資料27頁)。
  • 今後2~3年間で拡大を期待する地域として、前回調査(77.7%)同様、約8割の企業が南部に注目している。州別では、4回連続でテキサス州、カリフォルニア州が上位を占めた。前回8位のアラバマ州が3位、ノースカロライナ州、ワシントン州はそれぞれ12位、14位から、ともに6位に順位を上げた(資料28頁)。

調査概要


調査方法・実施時期:アンケート調査・2018年11月9日~12月7日
アンケート送付先:米国進出日系企業(製造業のみ)1,289社(回答企業数730社、有効回答率56.6%)

詳しいリサーチ内容はネタ元へ
[ジェトロ]
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